3日目/影の2人目
●三枝屋敷/食堂
陽が沈んだ頃。
三枝若葉は、壱号の料理に舌鼓を打つ。
「うん、とっても美味しいよ! ありがとう、壱号さん!」
「なによりです、ご主人様」
と、メイドである壱号は若葉の3歩後ろで佇んでいる。
侍女は食事の場でも対等ではないという事だろう。
本当にかしこまった、真面目な家政婦だ。
逆にこちらの頭が下がる。
「……ねぇ壱号さん。一緒に食べようよ?」
「いいえ、申し訳ありませんがご一緒には食べられません。貴方は私達やこの屋敷の主人なのです。失礼な態度は許されません」
さようですか、と箸を片手に肩を落とす。
「ご主人様、1つよろしいでしょうか?」
「ん?」
「…………よろしい、でしょうか?……」
「あ、ああ。いいよ、発言しても」
片っ苦しい。
いちいち主人の許可を取らないといけないのだろうか。
そもそも自らすすんで主人になったつもりはない。
なし崩しに屋敷に暮らしているため、線引きがどうにも曖昧だ。
「『壱号』と、私の事は呼び捨てになさってください。どうかお願いいたします」
「嫌だよ。人には敬意を払うべきだから。特に年長者には、って教わってきたんだ」
「素晴らしい考えです。ですが、貴方は三枝の血筋を受け継ぐ方です。先代様のお孫様ならば、どうか私達を顎で使っていただいて結構です」
「先代っていっても顔も知らないんだけどな……まぁ善処します」
お願いします、と言葉を切る壱号。
それ以降、あまり会話がなく食事を終える。
「ご馳走様でした。美味しかったよ」
「ありがとうございます。こちらも召し上がってください」
壱号、厨房からカートを引いてくる。
カップやポッド、食後のコーヒータイムだ。
緑茶や紅茶ではなく、コーヒー派な若葉。
願ってもない、好待遇だ。
「ところでご主人様」
「んー?」
と、深入りの香ばしさに鼻の下が伸びる。
「本日未明の、ゴキブリの侵入を許した処罰がまだのようですが、いかがなさいますか?」
若葉、コーヒーを盛大に吹き出しそうになる。
頑張ってそれを飲み込む。
「げほッ。処罰って、ゴキブリ程度で大袈裟な……」
「いいえ。本来ならばご主人様の寝所警護は”弐号”の役割です。したがって”弐号”の処罰を疎かにする事はできません」
今、また不安な名前が聞こえた。
ラップ音の例もある。
耳も変になってしまったらしい。
「”弐号”ってまさか……」
「はい。毒虫婦”弐号”。貴方様をお守りする家政婦の1人です」
読了ありがとうございました。
断りとして、一言。
この作品は、『家政婦=メイド』として表現しています。
ご容赦ください(笑)
もし字面の表現の仕方や、
無理やりなギャグテイストに思う所がありましたら、
ブックマークや評価よろしくお願いします。
生暖かく投稿していきたいと思います。