3日目/有能な万能メイド
●三枝屋敷
三枝若葉は、軋む扉を開けて自宅へと戻る。
今日1日、街中の本を扱う店を回った。
収穫はほんのひと握りだが、皆無よりマシだろう。
なにせ外道に関連した、魔術などの本は少ない。
魔術に関連した、時代背景や宗教。
それを絡めて、やっとそれらしい書籍を見つけ出した様子だ。
背中のバックパックに、数冊の本の重みが心地いい。
これぞ今日の収穫だ。
ハードカバーの本がほとんどだったが、これを読み解いていくとしよう。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
正直に告白しよう。
――ご主人様ってイイ響きだね。
「……あの、ただいま、壱号さん」
「はい。お帰りをお待ちしておりました。ご主人様」
一介の大学生。
平凡な男子学生に、恭しく最敬礼するメイド。
お父さん、お母さん。
誰しもが羨む、男の夢が叶いました。
産んでくれてありがとうございます。
壱号、小さく首を傾げる。
その仕草も、機械というより女性のそれに近い。
ほんのり甘い匂いも、彼女が人間なのではと疑いたくなる。
「先にお食事になさいますか?」
――なに、この定型句。
ここは天国か。
このまま亡くなった両親と鉢合わせするのではないだろうか。
「お食事ならあと30分ほどお待ちください。ご夕食がもう少しで完成しますので」
「え? ガスも電気もないのに、料理してるの?」
「はい。そうです」
と、にべもなく答える。
さも苦になっていない、と物語る表情。
「どうやって?」
「私の駆逐装備その壱七を使います」
「じゅうなな?」
壱号、人差し指を宙に向ける。
その第3関節が、独りでに折れる。
その折れた関節部。
根本の黒い空洞から、真紅の火炎が飛び出した。
「駆逐装備その壱七”小型火炎放射器”です。これでガスもいりません」
「あ、はは……そうだね、いらないね、うん……全然いらないや……」
意味は違えど、一騎当千とはこの事なのだろうか。
いや、1家に1台という言葉の方がしっくりくるか。
彼女の有能ぶりは、料理だけにとどまりそうになさそうだ。
読了ありがとうございました。
断りとして、一言。
この作品は、『家政婦=メイド』として表現しています。
ご容赦ください(笑)
もし字面の表現の仕方や、
無理やりなギャグテイストに思う所がありましたら、
ブックマークや評価よろしくお願いします。
生暖かく投稿していきたいと思います。