3日目/趣味と回想
●商店街/書店
彼、三枝若葉の趣味は読書である。
新作も捨てがたいが、書籍ならなんでも読む。
空想のファンタジー、過去の伝記、自己啓発やラノベまで。
特に今日のような書店や古本屋をがむしゃらに巡る時。
それは興味がある事や、わからない事がある証拠だった。
今ではインターネットで、知りたい事が数秒でわかる時代だ。
だが、あまりにも情報が錯そうしすぎている。
ほとんどが情報の焼き増し。
第三者の意見が多いともいえる。
しかし、若葉は違う。
著者の人間が見て、感じて、考えた事を知りたいのだ。
だから、若葉にとってインターネットはあまりにも信頼性が薄い。
紙の本こそ、情報の塊。
著者の私見が盛り込まれた、知識の集大成なのだ。
有名な書籍じゃなくていい。
ホコリにまみれた、色あせた書籍でもいい。
知識に進歩はあれど、衰退はない。
昔の古い知識ほど、凝り固まって濃密なモノはないのだ。
そういった本を探す事も、古本屋巡りの醍醐味でもあった。
「ありがとーございましたー」
間延びした店員の声を背に、若葉は書店を後にする。
「……確か、こっちにも古本屋があったよな……」
と、目当ての本が見つからないので、次へ向かう。
今回の目当ての品は、魔術に関して書かれた記述。
黒魔術、呪術と呼ばれた外道の知識だ。
当然かもしれないが、市販の書店には有り体なゴシップ雑誌しかなかった。
もし、胡散臭さそうな魔術について書かれた本があるとすれば、古本屋だろうか。
「……はは、魔術って空想の産物なんじゃないのか……ホント……」
××××× ××××× ×××××
つい数時間前の出来事。
今日の未明、若葉の寝室にて。
「んじゃ、貴方は普通の人間じゃなく……機械の身体、つまりはサイボーグって事ですか?」
はい、と静かに答える壱号。
正座する姿も、その容姿もまさに人間のそれ。
決して機械の身体だと信じられるわけがない。
「正確には機械は半分ほどですが、私達は先代様……貴方のおじい様によって改造されました」
「か、改造?」
「はい。かつて外道を研究していた先代様。当時の外道の粋を集めて私達を作ったのだといわれています」
「外道って魔術とか?」
「はい。私の場合、魔術と工学が組み合わさった魔工学の身体。半身半機になっております」
信じられない。
蝋燭に照らされたその表情。
確かに無表情の鉄面皮の印象があるが、肌には血色がある。
こうして人間のように喋れる――あ、半分は人間か――なんて信じられない。
「なんていうか……その、まだ信じられない。突然、ご主人様だの。仕えるだの。外道だのいわれてもさ……」
そうですね、と相槌を打つ壱号。
その様子に歯切れ悪さも、焦燥もない。
彼女自身、包み隠さず話しているのだから。
「もしかして行方不明になったっていう家政婦達って……」
「はい。私達の事かと」
××××× ××××× ×××××
「なんであの人のいってる事、信じちゃってるかな、オレ」
と、自嘲する。
まだ太陽は上ったばかりだ。
この街周辺の書店を全て巡ってみるとしよう。
読了ありがとうございました。
断りとして、一言。
この作品は、『家政婦=メイド』として表現しています。
ご容赦ください(笑)
もし字面の表現の仕方や、
無理やりなギャグテイストに思う所がありましたら、
ブックマークや評価よろしくお願いします。
生暖かく投稿していきたいと思います。