2日目/三枝若葉と装甲婦
●三枝屋敷/寝室(夜)
彼の名前は、三枝若葉。
この春から関東の大学に入学するために、地方から上京してきた。
歳は18歳。
趣味は読書、特に古本屋巡りを欠かす事はない。
まだ大学は春休み、新学期の直前だ。
叔父の助けもあり、無事に新しい住居を借りたその頃だった。
「…………え?」
新居の古い屋敷に寝泊まりして早2日。
1日目のポルターガイストに続き。
2日目は、白黒のメイドさんが屋根裏から降り立ったのだ。
夢でも見ているのだろうか。
いや、夢であって欲しい。
「排除した危険はどういたしますか? 殺しますか?」
と、メイド服の女性が指に挟んだゴキブリをこちらに見せる。
――いくらなんでも。
それを手づかみする人とは仲良くなりたくないからだ。
「……え、あの……外に逃がしてあげて、ください。殺すと可哀そうだし……」
若葉の震える声。
こくりと、それに頷くメイド服の女性。
しかし、目が合ってからじっとこちらを見つめている。
「…………」
「……な、なに――って、やめてッ! ゴキブリを近づけないでよ!」
「失礼しました。なぜ、ご主人様はこのような矮小な生物に驚いているのかと疑問に思いまして」
矮小。
おそらく、その暴れるゴキブリの事だろうか。
人間なら誰しも、嫌悪の対象だと思うが。
「嫌いなモノは嫌いなんだって! は、早く離してあげてよ!」
「嫌い、ですか? 人間の感情は不自由ですね」
興味がなくなったのか。
メイド服の女性、窓際へ歩み寄りベランダへ出る。
右手のゴキブリを庭の木々に放り投げた。
「ご命令通り、外へと逃がしました。これでよろしいでしょうか?」
ありがとう、と感謝する若葉。
「――君は一体、何者? 不審者? コスプレ?」
不躾な質問で悪いが、そう判断せざるおえない。
一応、人様の寝室に土足。
助けてくれたとはいえ、メイドの服を着た知らない女性が目の前にいる。
屋根裏から現れた経緯も気になる。
ゴキブリを素手で鷲掴むその神経もだ。
「申し遅れました。私、三枝家に仕える使用人でございます。夜分遅く、寝所へ現れた事、大変失礼いたしました」
メイド服の彼女は、慣れた所作で膝をつく。
頭を垂らし、主の言葉を待つ。
それはまるで、王族にかしずく騎士のごとき精錬な姿。
「三枝の、使用人……?」
「はい。私は装甲婦”壱号”と申します。以後、お見知りおきを」
「ちょ、ちょっと待って! そ、ソウコウ? イチゴウ?」
「はい。私の事は”壱号”とお呼びください。生涯を尽くして三枝家に仕える家政婦でございます」
読了ありがとうございました。
断りとして、一言。
この作品は、『家政婦=メイド』として表現しています。
ご容赦ください(笑)
もし字面の表現の仕方や、
無理やりなギャグテイストに思う所がありましたら、
ブックマークや評価よろしくお願いします。
生暖かく投稿していきたいと思います。