9日目/人外家政婦の巣
そろそろこの作品も完結です。
そこで皆さまにお願いがあります!!
この作品の結果として、自分の反省に繋がるので
ブックマークだけではなく、コメントなどもお待ちしております。
もし総合評価が100pt超えれば、
頑張って続編書きます(苦笑)
どうかよろしくお願いします!!
●三枝屋敷(夜)
喧々とした団欒の中。
壱号の咳払いが、静かに響く。
「では、ご主人様。伍号の処遇はどういたしますか?」
「しょ、処遇……? んーそう、だなー……」
三枝若葉は、頭を悩ませる。
が、すぐに疑問で返答する。
「君達はどうしたい?」
「このまま反省房へ入れるべきかと。あそこなら叫び声も魔力も遮断できますし」
さらりと、当然とばかりに答える壱号。
「はい! はぁい! 自分も賛成です! 『依頼主』って人を聞き出した方がいいと思います!!」
怪我を負っても元気に片手を上げる弐号。
「そうね。あそこは拷問部屋も兼ねてるからピッタリでしょうし」
「ですよね! いくら先代様の遺産があるからって、こんなに屋敷が荒らされちゃったらやり返さないとですよね!」
「ええ、そうね、弐号のいう通り。壊された壁や庭、屋敷の内部は計り知れないし、修理費用も請求しないと――」
「ちょっと! 2人ともストップッ!!」
そして、生々しい話題に割り込む若葉。
はい、と首を傾げる2人の家政婦。
「流石に物騒すぎるよ……拷問とか屋敷の修理とか……」
「ですが、ご主人様」
「あっちを見てくださいよー」
促されてると、そこには不気味にそびえる三枝屋敷。
しかし、その姿は見るも無残の有様だ。
玄関の扉は外れ、正面の窓がいくつも割れている。
正門や裏門、外壁は全てボロボロ。
彼らがいる、表の庭も然り。
正門から屋敷まで伸びていた石廊は半分以上、散っている。
地面がむき出しになり、無数の穴が開いていた。
そうしているうちも、うっすらと火薬や亡者の遺灰が漂う。
「……あーーー」
と、開いた口が塞がらない。
間抜けな表情で、まさしく幽霊屋敷になった自宅を眺める。
この屋敷で、家政婦達と過ごす。
そこで少しでも主人らしい事をする。
――そう思った矢先にコレかよ。
これからの将来。
彼女達と紡ぐこの先。
いいようのない不安に駆られてしまう若葉だった。
「あのさー結局、アタシはどうなるんだよ?」
と、通算3回目の欠伸。
伍号、胡坐をかきながら頬杖をついている。
しかし生憎と、それが様になっている。
屋敷をこうした本人だが、憎たらしさも怒りも湧いてこない。
「煮るなり焼くなり好きにしろ。アタシは死体だから美味くないけどな」
「流石に死体を食べる趣味はないよ。でも……」
「でも?」
「うん、君はもう帰っていい」
「は? マジか?」
マジです、と真顔で答える若葉。
主人の返答に、後ろで頭を抱える壱号。
それから場は、喧々ごうごうと化した。
その主人の発言に、家政婦達は声を荒げたからだ。
「ご主人様。お言葉ですが、伍号は屋敷や私達と敵対しました。あまつさえご主人様を人質にも」
「そうですよ! 伍号はこの屋敷にとって裏切り者です!」
彼女達の反論はもっともだ。
「住める場所もまぁなんとか守れたし? まぁ結果オーライって事で?」
また騒ぎ始める家政婦達。
他にも、何か口にしていたが覚えていない。
それくらい捲し立てられた記憶だけがある。
「でもさ、元凶を辿ればウチの爺様のせいなわけだし……」
そう、全ては祖父の厳十郎が始めた事だ。
屋敷や若葉を守るために、人外家政婦を創り。
家訓を残して勝手にこの世を去った、先代の主人のせいだ。
残された人外家政婦は自らの存在価値を求め。
片や屋敷を守り、片や新しい依頼主を求めた。
別にそれが悪いとは思っていない。
結果として、伍号と相反してしまっただけの話だ。
達観した、俯瞰した事に聞こえても構わない。
そう若葉は思う。
加えて、そんな種を蒔いた迷惑の張本人は故人。
ここは祖父を1番の悪者として矢面に立ってもらうとしよう。
だが当然、死人に口なし。
答弁の余地も、弁明もできない。
「だからさ……皆、被害者ってことでここは穏便に……」
壱号は断固として、反省室での拷問を主張している。
弐号もそれに賛同している。
「ほら、伍号さん。早くいって! 今のうちだから!」
荒ぶる侍女をなだめつつ、若葉は伍号を急かす。
若干――いや、大いに渋りながら立ち上がる伍号。
なんとも締まらない、呆気ない幕引きではある。
「……いいのかよ、本当に。後悔するぞ?」
「いいよ。あ、でもちゃんと依頼主って人に”外道の書”はないって伝えてね」
これ以上の争い事はもうたくさんだ。
つまるところ、三枝若葉も今年の春から大学生。
平凡で、自適な暮らしをしたいだけなのだから。
「……変なヤツ……一応、借りと思っておくけどさ……」
伍号の背中がそう語り、跳躍する。
屋敷の壁を乗り越えて、すぐに向こう側へ姿を消す。
「ご主人様ッ!」
「もうっ! なにやってるんですかぁ!?」
怒る家政婦達をなだめる若葉。
ふふ、と合間に微笑が漏れる。
彼が守りたいモノ。
それは家名でも、”外道”の知識でも、男の意地でもない。
この騒いでいる家政婦達と織りなす――
平凡だけど、時々に常識外れで――
自適だけど、少し危なっかしくて――
そんな奇想天外な、新しい暮らしだと――
きっと、人外の家政婦達は信じないだろう。
そう思ったらどうにも笑いがこみあげてきたのだった。