9日目/オモチャの叫喚
●三枝屋敷(夜)
「まずはオレを下してよ。それから”外道の書”だ」
「けッ! わかったよ、ほら、行きな」
伍号の顎が、三枝陣営にしゃくれる。
三枝若葉を羽交い絞めにしている亡者がゆっくり進む。
両者の中間距離で、亡者が若葉を解放した。
とりあえず安堵する若葉。
「ほら、これでいいだろ。次はそっちだ」
若葉が頷くと、壱号が書物を持ったまま歩きだす。
指先の火炎放射器はそのままだ。
たまに、のち上る火の粉が危なっかしい。
冷や汗――不死者の伍号がかくわけもないが――が止まらない。
「ソイツに渡せ」
相対する亡者、手を伸ばす。
「ああ、これ? ほら、自分で取りなよ!」
若葉、壱号から悪びれなく書物を奪う。
そして、興味が失せたように伍号へ放り投げた。
伍号、当然のごとく落ちた書物に気を取られる。
壱号も、本好きの主人にはあるまじき行為に目を丸くする。
だが、次の言葉を聞いて確信に至った。
「今だッ! 倒せ、壱号ッ!」
一瞬、呆然としていた壱号。
だが、主の声に我に返った。
「――っ!」
返事はいらない。
ただ、指示に従い。
ただ、目の前のチャンスを。
主人の求める結果を、掴み取るだけ。
壱号の縮地に対応が遅れる伍号と亡者。
気づけば、意識を刈り取る上段の拳。
顎を打ち抜かれ、白く塗りつぶされる。
「……かッ、はっ……」
足払いを受け、地面に転がる。
伍号が倒れこんだと同時。
周囲の亡者が灰となり、夜風に運ばれていく。
「伍号、観念なさい」
壱号、操死婦の腕を腰に回す。
そのまま、うつ伏せに寝かせて首も押さえつける。
「は……はは……かっこ、わる……」
「やりましたね! ご主人様!」
と、尻尾を振る子犬のように若葉へ駆け寄る。
その勢いあまって、若葉と一緒に体勢を崩した。
無邪気で、陽気。
さっきまでの緊迫感が嘘のようなじゃれ合い。
壱号、小さくため息をついた。
××××× ××××× ×××××
数分後。
若葉は、呆気なく伍号を解放した。
伍号もこれ以上の戦闘は望んでいないからだ。
一から亡者を再生できるほど、魔力も体力も残っていない。
それに準じて戦意も消えている伍号。
胡坐をかきながら、首や肩、腰などをほぐしている。
「あー、負けだ負け。ほれ降参」
と、白旗代わりに手の平を左右に振る。
先ほどまでの悪者面はどこへやら。
腑抜けた顔で、脱力し切っている。
「――んで、それは偽物だってことか?」
ぽつんと、地面に落ちている書物を指さす。
忘れ去られた書物を、弐号が拾い若葉に渡した。
「そうだね。これはただの屋敷にあった古い本」
「んじゃ本物は……?」
「うん、なかった。屋敷全部……地下室は怖くて弐号さんにお願いしたけど……」
それでもなかった、と告白する若葉。
その奥で伏し目がちになっている壱号。
「はは……まんまと騙されたってわけか……情けねぇな……」
壱号の眼差しが、憐みのそれに見える。
それとこの失態。
嘆かわしいにもほどがある。
「オマエもコイツら家政婦と一緒で、頭のネジが飛んでやがる」
「――違うよ」
「は?」
「訂正して。壱号さんや弐号、それに貴方もバケモノじゃない」
「……冗談だろ。おべっかはよせ……」
様々な人間から後ろ指をさされてきた。
バケモノ。
歩く死体。
「アタシみたいな不死者も! そこの重火器仕込んだロボットも! 気持ちが悪い虫に寄生されてるヤツだっているんだ!」
そして、気味が悪い屋敷の家政婦達とも。
きっと、それは本心の叫びに違いない。
「人間がそんなオイルみたいな血を出すか!? 人間が背骨からムカデを生やすか!? 心臓が止まった人間がどうやって動けるんだよ!?」
自分達は、人間じゃない。
自分達は、人間の道具。
自分達は、そう――
「アタシ達はれっきとしたバケモノだよ! ただ命令を聞く、都合のいい、人間の家政婦なんだよ!」
展開もラストスパートに入り、しみじみと……
『自分だけの力』で書き続けたわけじゃないんだな、と感じています。
始めは『自分の書きたい展開、ストーリー』でした。
でも、段々と『こうした方が面白くて、読まれるかな?』という要素も増え、
『それも入れちゃえ』
『おお、楽しいからもっと書こう』などなどの気持ちも混ざり……
この作品の最後があると思ってます。
まぁ、つまり、何がいいたいかというと……
『筆者が自己満足で書き始めたけど、要素がごちゃまぜになった作品』を読んで下さり……
本当にありがとうございます。
感無量です。
まだ終わってませんが、涙がほろほろ出そうです(笑)