9日目/無謀な勘定
●三枝屋敷(夜)
三枝陣営と伍号の手札は以下の通りだ。
三枝陣営は、戦いの発端となった”外道の書”を所持している。
片や伍号は、三枝若葉を人質にとっている。
――書物と主人。
それら手札は、天秤の重しとなって揺れ動く。
「はは! おい、壱号! さっき嘘つきやがったなっ!」
といいつつも、伍号の目線は弐号の掲げる書物に釘づけだ。
壱号は、この屋敷にはないといい切った。
しかし、若葉や依頼主はこの屋敷にあると語っていた。
ならば、どうだ。
やはり依頼主が正しかったではないか。
「あれから地下室をひっくり返してやっと苦労して見つけたんです!」
「そんな事が……」
呆然自失になる壱号。
その反応は予想よりも異常だが、それに構っていられるほど暇はない。
「どう? こっちには”外道の書”、そっちにはオレという人質がいる。これで交渉しない?」
「交渉? 物々交換でもしろってのか?」
「そういう事。そっちは咽喉から手が出るほど欲しい。こっちは命が惜しいわけ」
「……ずっと身体震わせてる坊主が……よく吠えるじゃない……」
――しかし。
と、別の可能性を探る伍号。
もしこれがブラフだったとしたら、どうなるのか。
実際、壱号の言質通り。
”外道の書”は見つかっておらず、弐号の持つ書物が偽物だった時。
これは交渉ですらない。
騙された上での、無条件譲渡だ。
確かに”外道の書”は欲しい。
だが、それが本物である確証はない。
「……それが本物だっていう証拠は?」
「それは中身を見てからのお楽しみです!」
こんにゃろ、と弐号のそぐわぬ元気さに悪態をつく。
生意気な事に、ブラフも交渉材料として利用してきたからだ。
つまり、それが偽物であれ。
こちらが本物だと信じれば、本物と同じ価値だ。
すでに本物だと思い込まされている時点で、相手の思う壺だろう。
屋敷のどこかに”外道の書”はあると、信じているからこそ。
伍号はこの絡め手に、苦渋を強いられているのだ。
「――壱号さん、ちょっと手伝ってくれる?」
「はい?」
突如、話しかけれらた壱号。
反応が少々遅れる。
「その本、焼いてもらえるかな?」
「は?」
と、素っ頓狂な声が飛び出す。
まるで自分の声ではないような錯覚。
「早く決めないと、焼いちゃうからね」
若葉、一体、誰にいったのだろう。
それくらい場は混乱していた。
弐号、壱号に近寄って書を渡す。
戸惑いながらも、壱号は胸元辺りで書をかざす。
人差し指の根本が曲がり、その穴から火柱がたつ。
「――ちょ! ちょっと待てよ! おいッ!」
咄嗟の行動に、狼狽する伍号。
それのために、準備もしてここまで傷ついてきたのだ。
そんな簡単に指示を出さないでほしい。
「なら、早く決めてよ。それでお互い丸く収まるんだからさ」
と、目配せする。
「ですが、ご主人様」
「いいからいいから。壱号さん、頼むよ」
壱号、恐る恐る指示に従う。
指先から、また火炎が威力を上げる。
「あーもう! わかった! わかったよ!」
これではどちらが人質なのか。
無茶苦茶な交渉に、伍号の心が先に折れた。
展開もラストスパートに入り、しみじみと……
『自分だけの力』で書き続けたわけじゃないんだな、と感じています。
始めは『自分の書きたい展開、ストーリー』でした。
でも、段々と『こうした方が面白くて、読まれるかな?』という要素も増え、
『それも入れちゃえ』
『おお、楽しいからもっと書こう』などなどの気持ちも混ざり……
この作品の最後があると思ってます。
まぁ、つまり、何がいいたいかというと……
『筆者が自己満足で書き始めたけど、要素がごちゃまぜになった作品』を読んで下さり……
本当にありがとうございます。
感無量です。
まだ終わってませんが、涙がほろほろ出そうです(笑)