9日目/最強の手札
●三枝屋敷(夜)
硝煙と閃光。
銃声と粉砕音。
灰色に舞う、黒と白のメイド服。
その家政婦の動きを止めたのは、伍号の声だった。
「動くなよ、壱号。動いたらコイツがどうなっても知らないぜ?」
――しまった。
と、後悔するもすでに遅い。
伍号や亡者に気を取られていたせいか。
三枝若葉への配慮を失念していた。
若葉、配下の亡者に組み敷かれている。
羽交い絞めにされて、半ば宙づり。
暴れようにも、力が上手く入らない。
「ご、ごめん」
借りてきた猫という言葉が似合う、その姿。
だが、状況的に洒落になっていないのが事実。
「曲りなりにもコイツは主人だろ? コイツの命は大事だよな?」
と、若葉の頭を軽く叩いた。
説明はさせるなよ、とばかりに壱号に笑いかける伍号。
「ご主人様を放しなさい」
「嫌だね」
伍号、若葉の前髪を掴み上げる。
苦悶する若葉を、舐めるように見つめる。
「アタシは”外道の書”さえ見つかればそれでいい。こんな坊主やオンボロ屋敷なんて、知ったこっちゃねぇんだよ」
「この屋敷には”外道の書”はありません」
伍号、眉間に皺が寄る。
「冗談よせよ」
「いえ、本当です」
「んなわけあるか! あの”外道”の事なら3度の飯より好物な、あのクソ爺が手放すもんか!」
「事実、ここにはありません。先代様は亡くなる寸前、どこかへ隠されました」
「……はは……」
「したがって、人質にとろうとも”外道の書”は手に入りません」
これ以上は無益です、と言葉の裏に意味を持たせる壱号。
「証拠は?」
「ありません」
「はは。んじゃ嘘じゃねぇか、ハッタリだ」
××××× ××××× ×××××
『”外道の書”は必ずある。それは三枝家に代々引き継がれるモノ。もし今度の新しい当主が持ってないと口にすれば、屋敷にある可能性が高い』
『”外道の書”は単なる、知識の集大成ではない。あれは人間の理を――』
断片的な記憶の欠片。
確か、依頼主はそう語っていた。
ならば、屋敷にない場合はどこにあるというのか。
××××× ××××× ×××××
「――あの……伍号、さん?」
「あ? なんだよ?」
若葉、目線だけを動かして伍号を伺う。
「もし……もしも”外道の書”の場所を知ってる……そういったらどうする?」
「はっ!?」
驚愕する伍号。
そして、距離を置いた先の壱号。
特に壱号など、面を食らった様子だ。
「おいおい! オマエ、この状況わかっていってるのか!?」
「……一応、わかってるつもり。うん。いつ、首を折られてもおかしくないってくらいには……」
ブラフだろうか。
先日、若葉は『知らない』と答えていた。
ここ数日でそれが判明するものか。
だが、若葉が真実を喋っているとした場合。
「でも”外道の書”の場所を知ってるオレは殺せないよね?」
「ならオマエごと、依頼主のもとへ連れてくだけだ」
屋敷を明け渡すためにとった人質。
それに、”外道の書”の在処という付加価値がついただけ。
手札はこちら方が多い。
交換条件にはなりえない。
「オレを連れていっても無駄だよ。ねぇ弐号さん?」
「――はい! ご主人様のおっしゃる通りです!」
呼応して姿を現す、褐色の家政婦。
裏門に回っていた亡者を退けたせいか。
ミニスカートのメイド服が乱れている。
「これをご覧ください!」
と、はだけた胸元から古びた書物を取り出す。
日焼けで麦色になったそれ。
釘付けになる一同。
「ま、まさか……」
「そうだよ。それが君の探してる”外道の書”だよ」
そろそろこの作品も完結です。
そこで皆さまにお願いがあります!!
この作品の結果として、自分の反省に繋がるので
ブックマークだけではなく、コメントなどもお待ちしております。
もし総合評価が100pt超えれば、
頑張って続編書きます(苦笑)
どうかよろしくお願いします!!