9日目/情けの鑑賞料
あけましておめでとうございます!!
皆さま、よいお年を!!
現在、最終局面を執筆中ですが……
次章について『閑話休題』で語っているので、
よろしければ読んでください。
●三枝屋敷(夜)
壱号と伍号。
白黒と薄紫。
しのぎを削り合う中、乾いた舌打ちがする。
「……やっぱりつまんねぇ……」
先ほどの高揚感が失せかけている伍号。
徐々に熾烈を極めてくるかと、思っていたが全くの予想外れ。
あくまで手数を隠して徒手空拳で対戦する壱号に、興がそがれた。
「そろそろ本気ださないと……畳みかけるけど?」
お互いの力は拮抗ではない。
それはお互いに周知の事実だ。
素手での戦闘は壱号とって本調子ではない。
その身体にこしらえた機械装備を使う事が、彼女の本気。
だが、その装備を使えば屋敷に大きな被害が出る事は必至でもある。
「ご主人様の屋敷をこれ以上、傷つけるわけにはいきません」
と、構えている両腕に小さな火花が散っては消える。
内部の神経系や組織が断線したのか。
拳が小刻みに揺れて、力が入りにくい。
「はは! よくいうぜ『私達の屋敷』の間違いだろ!?」
伍号、身体中から黒々とした液体が染み出している。
だがそれは彼女にとって血ともいえる、呪術媒体の体液。
失う量が多いと危ないが、この量ならば行動に差し支えない。
そして夢中に武器を扱ったせいか、荒い縫合は切れている。
腕、腹、首。
至る所で、少し皮膚が突っ張った感じがする。
当然、痛覚はないため、それくらいでは問題はない。
「先代のクソ爺様の命令に従ってるだけ。その居場所を求めているだけ。昔の事にすがっちまってさ……情けなくなるぜ……?」
「そんな事はありません」
「嘘だね。どうせその鉄面皮の下じゃ、屋敷さえ残れば三枝若葉なんていらないと思ってるんだろ? 頭をすげ替えて、また知らん顔して自分の居場所を守るわけだ」
「いえ、ありえません」
「正直になれよ。アタシだって同じ立場ならそうする。人間なんて、ひ弱ですぐ死んじまうんだ。仕えるなら屋敷や家名に仕えた方が気楽だよな」
「そこまでになさい、伍号。仕える者を求めて彷徨った貴方も同じ事です」
そりゃそうだ、と肩を落とす伍号。
本心をひた隠しにする壱号の戯言は、これくらいでいいだろう。
「んじゃまぁ……似た者同士の茶番もそろそろ幕引きにするか?」
「ええ、長い会話は好きません」
壱号の構えが、少し沈む。
伍号は、槍斧の柄を強く握りしめる。
次の数手で、詰ませる。
そうした気迫が場を占める。
亡者達の騒音が木霊す屋敷。
それを背景に、2人の家政婦が相対する。
しかし、闖入者によって場の鋭利な雰囲気が霧散する。
「――こなくそーッ!!」
伍号の背後。
バールを持った三枝若葉が襲いかかった。
地面に伸びた若葉の影が、伍号のそれと重なる。
「奇襲ってのはもうちょっと静かに近づくもんだぜ、坊や」
背骨に合わせた縦の攻撃は、難なく掴まれてしまう。
「邪魔するなよ。コイツを倒してからすぐに構ってやるから」
女性の容姿とは裏腹。
片腕だけの膂力でバールごと若葉を投げ飛ばす。
屋敷の窓枠に衝突する若葉を見送る伍号。
「ご主人様ッ!」
向かいの壱号から動じる声色。
それに伍号は眉を上げる。
「へぇ珍しいな、そんな顔するのも」
茶化す伍号の言葉も耳に入らないのか。
壱号は若葉に駆け寄る。
途中、それを強襲する事もできたが、ご愛敬だ。
少し焦った様子の壱号を見れた駄賃だと思うようにしよう。
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。
「アホだなぁー」とか、
「なんかこうすれば面白くなるのになぁー」とか、
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