9日目/中身のない矜持
●三枝屋敷(夜)
――本当、できない事ばかりだな。
三枝若葉は、その皮肉に笑いをこらえる。
伍号にも、その追従する亡者にも太刀打ち”できない”。
壱号達に主らしい事をしようとしたけれど”できない”。
一生懸命、バールを振り回しても何も”できない”。
結果、何も”できない”。
空虚な、ハリボテの主人だった。
××××× ××××× ×××××
「――でも、さ」
と、冷え切ったバールを強く握りしめる。
「できなくて当たり前だろ、そんなの」
始めから”できる”人間はいない。
そんな月並みの言葉もある。
強がりなのは、百も承知。
しかし、何よりもここで止めたら本当の意味で何も”できない”。
本を読む時も。
知識を得る時も。
経験を積む時も。
始めはゼロから、だ。
頁をめくる手を止めたら、何も進めない。
調べる欲を失えば、幼児と何ら変わりない。
だがらこそ、傷つく事やリスクがある上で、前に進む。
先の展開を怖がっていては、先に進めないからだ。
「どんどん面白い展開が待ってるっていうのに……そこで頁をめくらなかったら勿体ないでしょ……」
いうなれば、読書と一緒。
次を知るためにはその1頁をめくる。
仮想の人物なれど、そこに苦楽が描かれている。
紙の中で、その苦楽をどう乗り切るのか。
自分が読み解いていくうちに、どういった知識を得るのか。
「そう、だ……ごちゃごちゃ考えるのは……」
――止めにしよう。
若葉、顎を高く上げて深呼吸。
御託や迷いが、白く染まって吐き出される。
「…………」
もう”できない”に関して、どうでもいい。
頁をめくるように、目前の”できる事”をこなすだけ。
空っぽで、薄っぺらな、肩書だけのご主人様でいい。
逆立ちしても、一朝一夕で三枝厳十郎に追いつくわけもない。
恰好悪くてもいい。
屋敷の家政婦だけ働かせて、何が主人か。
「……よし……」
――まずは、いらないモノを捨てよう。
サバイバルベストを外す。
改造エアガンもいらない。
バクチクも、ゴーグルもその他の重たいモノも全て。
いるのは、バールで十分だ。
あとは体当たりでもして時間は稼げる。
――これで、あとは頁を……1歩を踏み出すだけだ。
――さぁ裸の王様らしい醜態を頑張って晒そうじゃないか。
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。
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