2日目/黒いアレ
すみません。
やっとヒロイン、出てきました。
●三枝屋敷/寝室(夜)
今日も夜が来た。
といっても、まだ暮らして2日目のそれなのだが。
「………………」
シーツを深く被っている三枝若葉。
寝室のベッドで膝を折って座っている。
「………………」
また、ポルターガイストが出るのだろうか。
憂鬱で仕方がない。
月光に照らされた携帯画面。
時間は深夜3時過ぎ。
そろそろ昨日のトイレに立った時間と同じになる。
叔父に電話した時。
さらに嫌な噂も聞いてしまった自分に嫌気が差す。
『ちなみに居間の隣は、爺さんの研究室だったらしいな。不気味なホルマリン漬けとかあって、怪しすぎたから開かずの部屋にしてるんだ』
開かずの部屋。
つまりは鍵が閉められている、立ち入る事のできない場所。
昼間のうちに確認したが、錆びた南京錠がしっかりついていた。
ホコリも被っていたため、最近、開けられた形跡などはない。
「……んじゃ誰が壁を叩いたってんだよ……」
オカルトを信じないわけではない。
まさかのまさか、祖父の亡霊が出たとでもいうのか。
気分を落ち着かせるため、引っ越す前の友人にも相談をした。
「出たっていってもさ……気のせいじゃない?」
「幽霊が出る夢でも見たんじゃないの?」
と、当然のごとく聞く耳を持ってくれなかった。
「皆、出た出た出たってさ……こっちの身になってくれよッ!」
若葉、うす暗い、青白な床を睨む。
――刹那、黒光りする何かが床を横切った。
動く手足、触角。
俊敏な動き。
見間違う事ない、黒い奴。
「で、出たーッ!? ゴキブリぃー!?」
ベッドのスプリングで、余計に飛び跳ねる若葉。
シーツが舞い、床にその裾が垂れてしまう。
ゴキブリ、そのシーツを伝いベッドへ上ってくる。
「き、きた!? マジで!? ちょッ助けて!?」
接近する、黒い塊。
素早い動きに身をよじる若葉。
ベッドから飛んで下りるが、直角に線を描くゴキブリ。
面と向かう1人と1匹。
ポルターガイストも怖い。
しかし、この生物に追われると戦慄がはしる。
「き、消えろ! さっさとどっか行っちゃえ!?」
「――ご主人様の必死の懇願を確認。標的を捕縛します」
と、屋根裏からモノトーンの衣服が落ちてくる。
大柄なスカートをたなびかせ、着地する人影。
「メイド、服……?」
印象的な、白いフリル。
淡い月夜に浮かぶ、黒の体躯。
天使の輪を連想する、ホワイトブリム。
後ろにまとめた髪は、鴉の濡れ羽色。
頭部のカチューシャよりも色白い、細い指先。
その先に身動きがとれない、黒いゴキブリ。
後ろ姿のメイド服、振り向き様にこういい放った。
「ご主人様の危険を排除しました。この標的はどうなさいますか?」
凛と、整った目尻。
月光に彩られた彼女の美白さに、若葉は生唾を飲み込んだ。
読了ありがとうございました。
断りとして、一言。
この作品は、『家政婦=メイド』として表現しています。
ご容赦ください(笑)
もし字面の表現の仕方や、
無理やりなギャグテイストに思う所がありましたら、
ブックマークや評価よろしくお願いします。
生暖かく投稿していきたいと思います。