9日目/常識と戦力の外側
●三枝屋敷(夜)
話にならないとは、まさにこの事だろう。
三枝若葉は太刀打ちできない、無力さに奥歯を噛みしめ続ける。
次々と迫りくる亡者に成す術もないからだ。
踵を引きずりながら、近寄ってくる亡者。
それも1体や2体ではない。
その数十体に連なる亡者の波に耐えられるわけがない。
足が震える若葉には興味がないのか。
意思のない骸骨達は、一心に、三枝屋敷へ向かう。
「こんのッ!?」
そこへ横槍を加える若葉。
生涯で初めて持ったバールを、懸命に振り下ろす。
細い金属が、亡者の頭蓋骨へ吸い込まれる。
しかし、衝撃はこちらの骨に伝わる始末。
痺れて思わず、バールから手が離れる。
「っ……いってぇ~……」
情けない攻撃を受けた骸骨が、瞬間的に動きを止める。
反撃を予想して、後退する若葉。
だが、すぐに何もなかったように通り過ぎる。
本来、伍号が事前に亡者へ伝えていた事がある。
それは若葉への攻撃を禁じるというもの。
その様子には傍から見ると、若葉など眼中にないかのようにも見える。
それが無力さを異様に駆り立てている。
――これで3回目の挑戦だったが、やはり無理だったのだろうか。
頭蓋骨の他にも、首や背骨、脛や足首も攻めてみた。
その挙句、見ての通り。
相手の亡者とでは、自分は話にならないのだ。
××××× ××××× ×××××
灰色の波が打ち寄せる砂浜と化した、三枝屋敷。
すでに数十体以上の亡者が屋敷に侵入している。
玄関はもとより、その壁や窓が叩き壊されている。
「……どうにかしたいけど……」
今さら屋敷の亡者と相対して、どうにかなるものか。
主戦力と考えていた武器も通じない、そう考えるとどうしようもない。
さて、と途方に暮れながらバールを拾う。
本当の人間の骸骨ならば、これでヒビも入ったのかもしれない。
だが実際、呪術で出来た亡者の骨には通用しなかった。
呪術も”外道”の1つ。
人が決めた道理に当てはまる事はない。
「……きっついな……」
本当ならば無理と諦めたい。
太刀打ちできない相手に背中を向けたい。
モヤモヤした、この胸の中のわだかまりを放り出したい。
――無理だとわかってはいた。
当然だ。
人間の常識、意識、知識。
そこを外れているから”外道”なのだ。
こうすれば、効果があるのでは。
ああすれば、対抗できる。
そうした理由が思い浮かんだ時点で、それは”外道”ではない。
――それはまだ、人の常識の範疇である証拠だ。
いくら自らのできる範囲で、調べ物をしても。
例え頑固な壱号を説得して、知りえても。
今の自分で、予想できてしまう事。
――それもまだ、知識の範疇である。
そうした常識、知識、意識のタガがある限り。
一生”外道”を理解する事も立ち向かう事もできないだろう。
そして、若葉も類に漏れず。
物理的に、破壊できると信じていた。
それこそ、常識と無意識のすり込み。
夢中で調べても、どこにもその事実はなかった。
それこそ、知識の限界。
したがって、初めから若葉は”外道”に抗う事はできないのだ。
××××× ××××× ×××××
無情にも荒らされていく、親戚から譲り受けた屋敷。
まだ10日も住んでいない、大きな三枝屋敷。
愛着を抱く前から、凌辱されていく屋敷の中。
裏門の弐号も耐え忍んでいる。
こちらの壱号も、怪我を負いながら戦ってくれている。
――そう、つまりはこの屋敷で1番無力なのは三枝屋敷の主。
1番”外道”を舐め切っていたのは、三枝若葉に他ならないのだ。
読了ありがとうございます。
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