9日目/無愛想な家政婦
●三枝屋敷(夜)
「――これならどうよッ!?」
冷たい風を切る音。
鈍重な槍斧がくるくると旋回する。
伍号、ペン回しでもしているかのようにそれを操る。
しかし、所詮は斧。
当たれば大打撃だが、振りかぶる隙が大きい。
見切るのは容易いのだろう。
半身になり、その鋭利な切っ先を避ける壱号。
避けるごとに血潮のオイルが、地面に散っていく。
主にそれは両腕辺りの損傷。
神経系の損傷ではないため、未だ活動には問題はない。
互いの矜持をかけた舞踊は、続く。
槍斧を躱し。
拳を交わし。
今度は壱号が攻める。
相手の重心がかかった左足を、細い足で刈り取る。
その足払いは華麗な半円を描く。
無駄のない、前動作もない。
「はは!」
口癖の嘲笑が、つい出てしまう伍号。
そこには焦る表情はない。
読んでいたとばかりに、つい笑みがこぼれてしまっただけ。
自らの膂力で攻撃を無理やりに止める。
また、縫合が切れる鈍い音がするが、どうでもいい。
軽く宙に浮きながらも、伍号は槍斧を杖の代わりにする。
柄の先が、石床をえぐりながら刺さる。
その勢いのまま、両足を壱号むけて蹴り飛ばす。
面を食らった壱号。
表情では伺い知れないが、
首を捕まえようと、手をかざしていた壱号。
少々、面を食らう。
表情は伺い知れない反面。
視界の端から襲ってきた両足蹴り。
その反応が遅れたのが証拠だろう。
「――がッ!?」
と、こめかみ辺りを強打。
視界に白いノイズがはしり、思わず膝をつく。
流石に機械仕掛けの身体でも、脳内はそれほど強化していない。
隙を与えてしまったと、身構える壱号。
揺れる、ぼやけた視界。
その中心に立つ伍号は、仁王立ちのまま動かない。
幸い、追い打ちの気配はなさそうだ。
「なぁ本気出せよ。せっかくの勝負がもったいないぜ?」
と、煽ってくる。
壱号の本分、戦闘スタイルを知っているからこその発言だ。
風景や伍号の輪郭、ノイズが落ち着く。
首を左右に振りつつ、立ち上がる壱号。
「私の仕事は、屋敷の防衛です。火炎放射などの火器、その他兵器はこれ以上の被害をこうむります」
確かに、武器などの戦術は出し切ったわけではない。
むしろ、全く出していない。
その手札を切る事もできるが、文字通り後始末が大変になる。
指先から出てくる火炎放射など可愛いものだろう。
そうしたら最後、屋敷の景観や美観を損ねかねない。
人によっては『命あってのものだ』ともいう。
だが、壱号にとって三枝屋敷は自らの半身。
身の上を案ずるばかりで、破壊する事はしたくはなかった。
「余裕ぶりやがって、仏頂面め」
「不愉快です。その発言、撤回なさい」
「なんで?」
「私は仏頂面ではないからです」
「……あっそ。鏡見てからそのセリフいえよ」
有言実行しなくては気が済まない、その偏屈さ。
一度決めた事は絶対に取り下げない、その頑固さ。
そして、それに拍車をかける無愛想な態度。
そんな昔馴染みを――誰が、仏頂面ではないと否定できるのか。
あからさまに伍号は、ため息を漏らした。
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。
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