9日目/拳の矜持
●三枝屋敷(夜)
皮肉なモノだ。
――伍号、微笑がこみあげてくる。
過程がどうであれ。
たとえ袂が分かたれても。
伍号と壱号、この2人は互いに誰かを求めていたのだから。
必要とされ、家政婦になろうとしていた。
不必要と烙印をおされ、家政婦になりたくなかった。
壱号は、三枝若葉という主を得た。
伍号は、依頼主という存在と知り合えた。
時は違えど。
主も違えど。
三枝に創られた家政婦2人は、己が主人に仕える。
その主人の目的を叶えるために。
自身の存在意義を証明し、仕えるために。
「アタシは壊れた家政婦じゃない」
と、戦斧を頭より高く掲げる。
「そうですか。いえ、それよりこれ以上、屋敷への凌辱は控えてもらえますか?」
後始末が大変です、と壱号は傷だらけの腕を構える。
亡者の群れも、すでに屋敷内部に侵入している。
だが。それに構えるほど余裕はない。
2人の間合いは、約5メートルほど。
その間合いも彼女達にとって、1歩で詰められる。
安心はできない、距離なのだ。
「そのうるさい頭、落としてやるよ」
「ご自由に」
黒鉄の点。
槍斧の先端が、壱号を襲ってくる。
頭を下げても間に合わない。
後退しても後追いされる。
そう直感した壱号。
「ぐッ!」
寸でのところで、斧腹に拳を入れる。
丸い点がぶれて、肩をかすめる。
その際、斧の刃先がフリルを切り裂く。
この間、1秒もない。
5メートルの間合いは、すでに数十センチ。
にやつく伍号の整った顔が、眼前にある。
カウンターとばかりに、右拳が伍号の腹に吸い込まれる。
肉が食い込む感触、そして何かがちぎれる音。
伍号、片足をバネにしてまた距離と置く。
「ぺッ! 効くねぇ~」
伍号の白いエプロンドレス。
その中心からにじみ出る、黒く濁った液体。
腐臭が壱号の鼻をつく。
すでに壱号のメイド服、その腕の布地は存在していない。
そして、露出した華奢な両腕には無数の亀裂がある。
離れた伍号の位置でもわかる、腕から滴る赤銅の液体。
それは血というよりも、まるで機械のオイルに似ている。
「これ以上、戦闘しても無駄なのですが――やはり引く気はありませんか?」
「くどい。アタシもオマエも……自分の居場所を守るために家政婦やってるんだろ。そんなタイマンに水を差すような事いうんじゃねぇよ」
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
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