9日目/腕と斧
●三枝屋敷(夜)
徒手空拳。
それが壱号の戦闘スタイルである。
状況に合わせた、素手の柔軟さ。
武器を必要としない、自身の強固さ。
たなびくスカートをもろともしない、瞬発力ある身軽さ。
彼女には武器は不要。
己のみ、それがあれば十分に事を成せる。
「ええ。では、参ります――」
と、ステップは軽やか。
だが、踏み出したつま先が石廊を沈ませる。
刹那に散った石の破片が地に落ちる頃。
壱号は伍号にひっ迫し、右腕を振り下ろしていた。
「はは!」
伍号、予想通りとばかりに笑みがこぼれる。
槍斧の頭部、その腹を眼前に滑り込ませる。
金属と金属。
甲高い衝突音が耳をつんざく。
壱号、音叉のように奏でる右腕を腰にあてる。
だが、それもつかの間。
今度は膝を折り、地面へと根をはる。
腰にためた右腕に、身体のバネをのせて振り上げる。
狙うは斧を掻い潜った先、伍号の顎。
この斧が上手く死角に入り、状況判断もままならない。
「はは!」
だが、それも読んだのか。
はたまた野生の嗅覚か。
壱号のアッパーは、空を切る。
伍号は首をめいいっぱい後ろへと伸ばし、それを回避していた。
「いいねぇいいねぇ! やっぱりガチンコっていいねぇ!」
ぶち、と。
小さな、何かが切れる音。
強く槍斧を握りしめた伍号の、二の腕の縫合がはち切れた音だ。
女性の、細い腕。
その腕が、その筋肉が膨張して、武器を軋ませる。
その槍斧を旋回させる。
全体重をかけて、コマのようにひと回り。
軸となった伍号。
遠心力で外から襲ってくる、凶器の刃。
「――ッ!」
胴辺りにくる。
そう直感した壱号は、左腕を盾にする。
またも重音と重音。
斧の斬撃を受け、くの字になりながら吹き飛ばされる壱号。
くるり、と。
地面を擦って体勢を整える。
服の袖から露出する、一筋の肌。
その淡い色の皮も、無残に切り裂かれている。
しかし、その肌の奥は人間の中身ではなかった。
肌の下は、青銅の塊。
それはれっきとした、壱号の腕となる部分。
逆説を唱えるならば、薄皮1枚で猛撃を防いだともいえる。
片や、伍号の槍斧には刃こぼれ1つとて存在しない。
傷跡は残れど、無傷の壱号。
刃こぼれもない、伍号の槍斧。
果たして、称賛されるべきはどちらなのだろうか。
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。
「アホだなぁー」とか、
「なんかこうすれば面白くなるのになぁー」とか、
そんな共感があれば、ブックマークや評価お願いします。
正直、励みになります。