9日目/亡者の波
●三枝屋敷(夜)
伍号、仕切り直しとばかりに槍斧を肩で担ぐ。
「んじゃ、やりますか」
伍号の異様な構え。
右足に重心がのり、左足は前へ軽く前へ。
「――せーのッ!」
と、己の武器を掲げる。
その槍斧は夜空を刺し、全体重心を矛先にかけて振り下ろす。
「ッ!!」
咄嗟に反応する、壱号と弐号。
身軽な弐号が、三枝若葉を抱えて離脱する。
彼女達がいた庭を真っ二つ。
正門から玄関まで続く、石廊を割いていく。
緩い地面を指で掬ったような爪痕。
目を丸くする暇もない若葉。
「ほれ、オマエらも仕事しな!」
伍号の号令で、壁際に押し寄せる亡者が荒々しく動き出す。
数で正門や裏門を強引に壊す。
壁際の亡者も仲間を踏み台にして、足場をつくる。
2メートルはある壁に我先にと壁を登っていく。
手入れが行き届いていない、鬱蒼とした深緑の庭。
そこに灰色の骸骨が段々と侵食していく。
「ご主人様はこちらにいてください! いくよ”むかむか丸”!」
玄関にほど近い、花壇に若葉を下す弐号。
物陰に隠れる若葉を見届け、裏門へと向かっていく。
裏門は弐号。
正門は壱号が亡者を食い止めようとしているのだ。
弐号の背中を見届けた伍号。
「アンタだけでいいのかい? アタシは昔と違って強くなってるよ?」
「そのようですね」
と、淡々とした受け応え。
特別、落胆したり驚いたりしていない。
再び、壱号が玄関前に移動して伍号を見据える。
「その剛腕も、魔力も衰えていないようで安心しました」
「はは。当たり前だよ。アタシはオマエらと違うからな!」
「――ご主人様」
と、背中で若葉に語りかける。
「私達が守るべきモノの最優先は貴方自身です。ですが、私はこれから伍号に専念しなければなりません。ですからお願いです。これから少しの間、どうかご自身だけで凌いでいただけますか?」
「……う、うん。わかった。なんとかしてみる」
張り切ってハリボテの装備を整えた上。
またこうして彼女達に守られる。
その様子がいかにも滑稽で、無力。
居たたまれない返事しか出ない。
「結構です」
瞼を閉じ、呼吸を整る壱号。
「もういいか?」
「ええ。では、参ります――」
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。
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