9日目/準備万端
●三枝屋敷(夜)
「答えはノーだよ」
屋敷の玄関奥から声が響く。
三枝若葉が暗闇の帳から姿を現す。
「この屋敷を追い出されたら住む場所がなくなっちゃうからね」
と、片手に錆びたバールを引きずっている。
両手の指にはテーピングをこれでもかと巻いている。
身体には、真新しいサバイバルベスト。
ポケットからバクチクやエアガンらしきモノが覗く。
ゴーグル越しに、伍号を睨む若葉。
「…………おい、壱号」
「はい」
「オマエらの主人はあれか、人でも殴り殺しにいく気なのか?」
「…………」
流石の壱号も、返す言葉もない。
気を遣った弐号が、屋根から下りてきて代弁する。
「一応、止めたんですよ? それじゃ13日の金曜日みたいだって」
「止めてこれかよ……同情するぜ……」
敵ながらも哀れみの眼差しを向ける伍号。
「はは。やっぱり三枝は変人しかいないんだな」
「ですよねぇ。自分もそれに関しては否定できないというか……」
「さっきからなんだよ。これのどこが悪いんだよ?」
と、鼻息荒く抗議する。
「悪いといいますか……ねぇ……」
「ああ。オマエ、舐めすぎ」
「な、舐めてないよッ!?」
「ご主人様。じゃあ、このバールはなんですか?」
「――死者って頭が弱点でしょ。こうバゴーンと殴り割ってさ」
亡者に急所はない。
「じゃあ、そのバクチクは?」
「――よく音に反応して群がるっていうでしょ。囲まれた時に役立つかなって」
亡者に五感はない。
「じゃあ、そのエアガンは?」
「――昔の友達に借りた。ないよりマシかなと思って」
亡者の体躯にそんな攻撃は意味がない。
「……なぁ、オマエ、さ……」
と、頭をかきながらの伍号。
「それってゾンビとかが出てくるヤツの装備じゃねぇの?」
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。
「アホだなぁー」とか、
「なんかこうすれば面白くなるのになぁー」とか、
そんな共感があれば、ブックマークや評価お願いします。
正直、励みになります。