8日目/初めての命令
●三枝屋敷/食堂
「ちょっと、考えた事があるんだけど――」
三枝若葉は、軽く炙ったバターロールを頬張る。
朝の清澄な空気が漂う食堂。
主の横に佇む、壱号と弐号。
絵面的には、どこぞの坊ちゃんが優雅に食事中にも見える。
しかし、そんな事を気にしている場合でもない。
「――今日はずっと調べ物をしていていいかな?」
「調べ物、ですか?」
主と侍女であっても、弐号の対応は友人のそれと変わらない。
畏まる様子よりも、あどけない自然体がよく似合う。
後輩の女性と話しているような陽気さがあるからだ。
「うん。わからない時はまずは調べる。これ、オレの鉄則」
「何をお調べに?」
壱号は、淡々と問う。
「アイツ……伍号が使ってた亡者――だっけ? あれについて」
「チャ、チャレンジャーです……チャレンジャーがここにいます」
「差し出がましいですが”外道”についての深入りは止めていただけるようお願い申し上げたつもりですが?」
「うん、わかってる。でも、このまま何も知らない状態だとただの間抜けでしょ?」
屋敷を守るためには、まず敵を知らなくてはいけない。
弱点であれ、特徴であれ、なんでもいい。
情報や知識は武器だ。
どのみちこのままだと、先日の二の前になりかねない。
「私は反対です。屋敷の防衛は私達にお任せください」
「そうですよ。私はお姉様より弱いですが、お姉様はとってもお強いんですから!!」
「でも『もしも』があったら? もしもあちらに劣勢を強いられたらどううるの?」
「……それは、その……」
と、流石の元気娘も言葉が出てこない。
本当ならば、壱号達本人から直接聞き出したい。
しかし、弐号はともかく壱号は口を開かないだろう。
きっと断固として”外道”について語ろうとしない。
「今回はちゃんと目的があるんだ。深入りはしない。大丈夫だよ」
これまでは知識欲を埋めたい――本当にそうなのか――の欲求。
その延長戦だった。
しかし、今は違う。
屋敷を、家政婦を任された自称、ご主人様として。
三枝若葉は”外道”に足を踏み入れなくてはいけない。
「守られるって立場も捨てがたいけど……それじゃ恰好悪いしね」
彼女達の主になると決めた。
だから少しでも彼女達の力になりたい。
それが本心。
睡眠不足で、思考がまとまらない時とは違う。
建前ではない、自らの選択。
行動の理由だった。
「散々、屋敷を探し回った”外道の書”も結局はわからず仕舞いでしたしね。ここは”汚名挽回”というやつですね!!」
「弐号……オレをどう思ってるのか、よくわかったよ。あとで外の草むしりよろしくね」
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
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