8日目/柔和な瞳
●三枝屋敷/自室
睡眠は脳と身体、そして心を洗い流してくれる。
寝てから考えるとは、よくいったものだ。
起床した三枝若葉。
窓から覗く白い朝日に、少々驚く。
日光はこれほど眩しかったのかと。
しかし、目に見えた疲労感はない。
まだうっすらと目の下のクマは残るが、大した事ではないだろう。
思った以上に結構、寝てしまったようだ。
「……お腹減ったな……」
そういえば、ここ数日、まともに食事も睡眠もとっていなかった。
空腹も感じた上で、まとわりつく眠気もない。
おそらく快調に向かっている証拠だろう。
若葉、ベッドからゆっくり起き上がる。
寝る前の気だるさが嘘のようだった。
「……あれ……オレ、最後なにしてたっけ……?」
考え事してたら眠くなってきて、それからの記憶がない。
横になった覚えもない。
視界の奥に、机と椅子が映る。
確か、あの椅子に腰かけていたはずだ。
「……あー寝ちゃったのか、そのまま……」
となると、運んだ人物は明白だった。
そこで毎度、見計らったようなノックが3回。
リズムよく鳴った扉が開き、壱号がこちらに会釈をする。
「おはようございます。ご主人様」
「ああ、おはよう。ありがとう、ベッドまで運んでくれて」
「いいえ、当然の事をしたまでです」
白いエプロンドレスは、さらに純白に染まる。
逆に後ろでまとめた黒髪は、その光を跳ね除ける。
小ぶりな丸メガネ越しに、黒い瞳がこちらを見つめる。
「重かったでしょ?」
「いいえ、全く」
「本当に?」
「はい」
「オレ、どれくらい寝てたの?」
「12時間ほどです」
「……半日か……あれから何かあった?」
「いいえ。屋敷管理には何も問題ありません」
そっか、と頷く。
何もなければそれでいい、と安堵する若葉。
「お目覚めのコーヒーはこちらに。下で食事の準備ができております。どうぞ食堂へお越しください」
「わかった。着替えたら行くよ」
「はい」
と、答えるが、一向に退室する様子はない。
「……あの、着替えたいんだけど……?」
「お手伝いします。お身体も本調子ではないのですから」
「……いいです、遠慮します、早く出ていってください……」
「かしこまりました、ご主人様」
お決まりの会釈。
しかしいつも通り、淡々とした言葉とは裏腹に。
その瞳が、出会った頃よりも柔和になった気がするのは勘違いだろうか。
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。
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