7日目/心の整頓
●三枝屋敷/寝室兼自室(夜)
今さらながらの悩み事。
三枝若葉にはこの屋敷は大きすぎる。
これまで親戚宅を転々としてきた彼にとって。
部屋など1部屋あれば十分だ。
なぜなら、場所があればあるほどモノを置きたくなってしまうから。
置ける場所に余裕があると、何かを置きたくなる。
親戚宅に居候していた頃。
読みふけった本の所在に苦渋した思い出がある。
しかし、知識はいわゆる脳の電気信号だ。
脳内へ収納できて、物理的に場所をとらない。
知識として生かしつつ、よく断腸の思いで本を売りに出した。
この屋敷に引っ越す前も、ある程度は断捨離をしたつもりだ。
――だからこそ、三枝屋敷でも主に寝室だけで活動していた。
身体を休められる寝具があり。
本が読めてコーヒーカップが置ける机があり。
衣類や雑多なモノが仕舞える場所があればいい。
最低限の生活。
狭い部屋――若葉にとってはこの部屋は十分に広いが――があればそれでいい。
「……まぁ我慢しても本であふれるんだろうけど……」
まだ他の部屋をさらっとしか確認はしていないが、管理は壱号に任せている。
このまま屋敷に住めば、書斎よろしく本の保管庫になるのは必至だろう。
だが、それは暮らし続けられる場合の話だ。
「……でも、変な事になっちゃったな……」
と、独り言を漏らす。
”外道の書”が屋敷内にない。
それが原因で緊張の糸が弛緩してしまった。
あまり力が入らない下半身を、浅く椅子に腰かける。
背もたれにも思う存分、上半身を預ける若葉。
「…………」
選択には後悔がない――とは、思う。
この屋敷、現状から逃げ出しても、何も変わらないからだ。
また叔父の家に厄介になるしかない。
肩身は狭くないが、内心、心苦しいのは確かだ。
なにより、壱号や弐号の事が後ろ髪ひかれる。
祖父の所業とはいえ、彼女達は”人ならざるモノ”になってしまった。
ああ恰好つけた反面。
形になりえない負い目を感じる。
「……どうすれば……いいのかな……」
その回答は、どんな本を読み解いても出てこない。
いくら読んでも、返ってはこない。
”外道の書”を見つけた方がいいのか。
伍号に”外道の書”がない事を示談する方がいいのか。
壱号や弐号の居場所――この三枝屋敷を守るためにはどうすれば最善なのか。
「ご主人様って……決断するのが……大変、だな…………」
まどろみが襲ってくる。
若葉、口元が緩み双眸がゆっくりと落ちていく。
××××× ××××× ×××××
若葉、思考が睡魔に負け寝息をたて始める。
控えめなノック。
そして、丁寧な足取りで壱号が若葉に近づく。
壱号、軽々と若葉を持ち上げてベッドへ運ぶ。
例にもれず、肩口までシーツをかける。
「ありがとう、弐号。知らせてくれて」
「いえいえ。風邪をひいては困りものですから」
屋上から、くぐもった声。
「よかったんでしょうか、これで……?」
「後悔する暇があるならば、少しは武器でも手入れなさい。弐号――いえ、拾号」
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。
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