7日目/熱望する鋼鉄
●三枝屋敷/研究室
三枝若葉は、回らない思考を繋ぎとめる。
壱号との会話。
それを落ち着いて、整理してみる。
『三枝の血筋を絶やす事なかれ』
自分を守る事、祖先を守る事。
そのために半永久的な生命を家政婦達に授けた事。
かつて祖父である三枝厳十郎は、家政婦達にそう厳命した。
だが当時、厳十郎の娘――若葉の母は勘当同然に姿を消した。
苦労した捜索の元、娘夫婦は見つかる事がなかった。
数年後、亡き主の屋敷。
そこには家政婦が主の厳命を守っていた。
主を失った家政婦達は陰ながら屋敷を守った。
いつか見つかるであろう、新しい血筋を待ったのだ。
しかし途中、伍号はそれに嫌気がさして離反。
それを機に、他の家政婦達も散り散りになったそうだ。
『――三枝の血筋に仕えよ。三枝の血脈に”外道”の答えがある』
もしかしたら、他の家政婦はこの言葉を希望と想ったのかもしれない。
三枝の血筋を見つけるべく。
自分自身、その外道の身体を解消するべく、旅立ったのかもしれない。
今となっては、ただの推論に過ぎないが。
――挙句、取り残されたのは壱号と弐号の2人だった。
「……それから、オレが引っ越してきた、と?」
はい、と大きく頷く壱号。
こうして話を聞けば、簡単だ。
しかし、祖父が亡くなって数十年は経っているはず。
それだけの間、壱号達は屋敷でひっそりと暮らしていた事になる。
「……ずっと……屋敷を守ってたんだね……」
「はい。それが先代様の望みでした。私達もご主人様には感謝の念が絶えません」
「感謝?」
「はい。私達、家政婦は主人あっての存在。途方もなき暇を壊していただいたのはご主人様――貴方です。」
改めて、姿勢を正す壱号。
真正面から若葉を見据える。
「――だからこそ、ご主人様にはこれ以上”外道”には足を踏み入れてほしくないのです」
外道を突き進めば、先代当主と同じ道を辿る。
入口はどうであれ、若葉は”外道”という知識を知ってしまった。
「このまま深入りをすれば平穏な死に方はできないでしょう、先代のように――」
若葉を失えば、彼女達はまた”いらない家政婦”になる。
壱号の心の隅。
伍号が意地悪くほくそ笑む。
伍号は、自分の存在意義を求めて去っていった。
彼女も”いらない家政婦”になりたくなかったからだ。
――半ば、伍号の事も悪くいえない。
と、壱号は諦観する。
「ですがこの屋敷にいる以上。私達はご主人様を命に代えてもお守りいたします」
「………………」
向かいの若葉、少し目を伏せて黙る。
それもそうだろう。
ロクな死に方はできません、と同義なのだ。
知識欲に背中を押され、足を踏み込めば最後。
泥沼のように足元は沈み、抜け出せなくなる。
しかし壱号は、暗にこうもいっている。
若葉に対して泥沼の前で座り込んで欲しい。
このまま屋敷に住み続けて欲しいと。
冷めきった、鋼鉄の手足。
体温が低い、強靭な身体。
だが内なる心は、とても熱い。
――ああ。私はこんなにも……
壱号、エプロンドレスの上から胸に手を置く。
――人間のように何かを渇望できたのですね。
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。
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