4日目/知らない悔しさ
●墓場(夜)
「なぁ三枝若葉……アンタはそんな家政婦を侍らせて気分がいいのか?」
「え?」
「背中からムカデもどきだの、右腕の先が真っ二つに割れるだの。至る所に毒虫を飼ってる、そんなグロいコイツの事だよ」
と、顎で弐号を指す。
今の弐号は、人間のそれではない。
――異形。
まさに人外の姿をしている。
背骨を模したムカデのような虫が、手足を動かしている。
右腕は分断され、ノコギリ刃のようなクワガタと化している。
その後ろ姿を見て、どこの誰が、彼女を人間だと思うだろうか。
いや、思うはずもない。
「…………ぁ……」
「……ご主人様……」
と、振り向いた表情はいつもの優しいそれ。
柔和で、感情豊かな弐号の顔だ。
こんな劣勢な状態でも、それが崩れる事はなかった。
「はは。こっちもこっちだな、おい。まだ『ご主人様』って呼ぶのかよ。コイツはたまたま、あの屋敷に引っ越してきただけの坊やだぜッ!?」
くは、と腰を折って笑う伍号。
「”外道の書”の在処も知らない、ただの坊やだ! 外道の何たるかも知らない、無知な坊やだよッ!」
「……そ、それは…………」
上手く言葉が思い浮かばない。
伍号の啖呵にいい返す事ができない若葉。
「そうさ! 初めて見る、外道の世界を体験してビビっちまってる坊やなんだよッ!」
若葉、気づけば拳を強く握りしめていた。
××××× ××××× ×××××
「――暴言もそれほどになさい。近所迷惑です」
凛と、鈴を転がした声。
透き通った、しかし張りのある自信あふれた壱号の声。
「お姉様ッ!」
「くそっ! オマエかよ!?」
茂みの影から現れる、1人の女性。
三枝屋敷を管理する家政婦の1人、壱号の姿だった。
「それに我が主への罵詈雑言も捨て置けません」
と、小ぶりな丸メガネを持ち上げる。
「――覚悟はできているのでしょう、伍号?」
読了ありがとうございます。
簡潔に。
コミカルに。
引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。
「アホだなぁー」とか、
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