1日目/ポルタ―ガイスト
●三枝屋敷(夜)
シーツのカビ臭さを我慢して、やっと寝つけた就寝後。
その深夜未明。
唐突に目が覚めてしまった三枝若葉。
尿意に促されて、トイレへと向かう。
ゆっくりと携帯のライトを頼りに廊下を突き進んだ。
そして、用を足した後。
”それ”を見つけてしまった事が全ての始まりだ。
「……え?」
と、素っ頓狂な声が漏れる。
「な、なんで……?」
視線の先、居間から明かりが漏れている。
扉も半開きになっており、蝋燭の影が扉に漂う。
電灯の白色ではない。
陽炎のような、暖色。
その明かりは不審さ極まりない。
なぜなら昼間のうちに屋敷を探しても蝋燭など見つからなかったからだ。
だから蝋燭も先ほどコンビニで買ってきたのだ。
その蝋燭も、まだ使わずに寝室の隅に放り投げてあるはずだ。
いや、そもそも寝る前に蝋燭など灯していない。
「だ、誰かいるの……?」
と、消え入る小さな問いかけ。
扉との間からのぞき込むが、当然、誰もいない。
そう、この三枝屋敷には若葉しかいない。
昼間のうちに引っ越しを手伝ってくれた親戚はすでにいない。
「…………?」
居間を陣取る、木目調のテーブル。
そのテーブルの中心に備えた燭台の火が、ゆらゆらと燃えている。
「……誰もいない、よな……」
若葉、扉を開けて居間に入る。
荘厳な室内を見渡しても、燭台以外は昼間と同じ景色。
そっと、石造の壁に手をそえる。
――しかし、触った瞬間。
鈍重な衝撃音と振動が左手に伝わった。
「うお! な、なんだ!?」
壁が音をたてながら軋む。
まるで向こう側の部屋からこちらの壁を叩いているかのように。
壁を叩く音は次第に大きく、苛烈になっていく。
暖炉の上にあった置物。
それが微弱に揺れ、次第に暖炉の際でするりと落ちる。
若葉、驚きのあまりに石壁から遠ざかり、膝がせせら笑う。
風も吹かない部屋で、燭台の明かりがふと消える。
暗闇に轟く、壁を叩く音。
その現象も、数秒だったか。
はたまた数分だったか。
次第におさまっていく。
若葉が脇目もふらず、寝室に逃げ込んだのはいうまでもない。
読了ありがとうございました。
断りとして、一言。
この作品は、『家政婦=メイド』として表現しています。
ご容赦ください(笑)
もし字面の表現の仕方や、
無理やりなギャグテイストに思う所がありましたら、
ブックマークや評価よろしくお願いします。
生暖かく投稿していきたいと思います。