表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/52

4日目/操死婦

●住宅街

 

 伍号の追走はない。

 そう判断した弐号は、瓦屋根の一軒家で足を休める。


「はぁ! ふはぁ! い、息が! で、できるッ!」


 と、緩んだ上着のおかげでやっと口呼吸ができる。


 四つん這いの三枝若葉さえぐさわかば

 背中が異常なほど上下し、脂汗が止まらない。


 弐号が図書館の窓から逃げたのはいいものの。

 結果的に、首を絞められながらの逃亡。

 

 さしづめ、首絞め絶叫マシーンといったところか。

 我慢できず、弐号の細い腕をタップするも無視。

 『もう少し我慢してください』の1点張りだった。



「ご主人様。このまま屋敷まで逃げ切ります! さぁ行きますよ!」

「ちょ、おま――」

 

 伸びる褐色の手も逃げようとした時。

 自分の影に、さらに大きな影が覆いかぶさった。


「ひッ!?」


 光が灯る事のない、両眼。

 歯抜けになった、むき出しの歯。

 

 後は、骨。

 骨しかない身体。

 無機質なドクロが、こちらを見つめている。

 

「ご主人様ッ!」

 

 咄嗟の反応のおかげか。

 弐号に庇われながらも、その鋭い爪を回避する。

 

 今度は、若葉の腹を抱えて隣のマンション屋上へ移動する弐号。

 その華奢な身体のどこにそんな力があるのか。

 

 いや、そもそもの話。

 抱える力があるのならばそうして運んで欲しかった。

 

 眼下の先、揺れる骸骨がこちらを見つめてくる。


「……な……なんだよ、あれ……」

「あれは伍号お姉様が蘇生させた亡者です」


「も、もうじゃ?」

「はい。たぶん近くのお墓から調達したんでしょう。死人を蘇らせたんです!」


「蘇らせたってそんな簡単に――うわぁッ!」


 いうや否や、弐号はまた跳躍する。

 

 彼女がいた場所へ、振り下ろされた槍。

 コンクリートとの金属音が奏でた直後、割れる足元。


 裕に伍号の身長を超える斧槍を軽々、肩口にのせる伍号。 

 へぇ、と感心した表情を浮かべている。 

 

「少しは成長してるみたいだねぇ」


 2人との間は、戸建て1軒分。

 その差があっても、落ち着いた伍号の声色が耳に届く。

 

「ありがとうございます。裏切り者であってもその言葉……嬉しいですよ」


「はっ……またそれかい。『裏切り者』『裏切り者』ってアンタはそればかり……いつも自分の都合のいいようにしか見えないんだね……」


「どういう意味ですか?」


「そのまんまさ。アンタは直情的すぎる。物事をずっと真正面からしか見れないんだろ?」


 耳を傾けている若葉。

 否定はできない。

 なぜなら、その通りだから。


「だからアタシは屋敷を抜けたんだ。誰にも必要とされない家政婦オモチャなんてゴミ同然なんだよ!!」

「やらせません!」


 怒号を吐き出す伍号。

 主を庇いながらも、それを躱していく弐号。

 その度に建物の屋根は大きな穴を開けていく。


「はは! 逃げるばっかりかよ!! お得意の毒虫はどうした!?」

「わかってるくせに! 本当に意地悪な人ですね!」


 住宅街の最中、拓けた場所に出る。

 曇天に月が隠れたせいか、よく全容がつかめない。


 仕方なく、そこの地面に足をつける弐号。

 久々の地面だと、感涙する余裕もない若葉。


 晴れる、夜雲。

 恥ずかしがり屋の月が、姿を現す。


 月光が差し込み、降り立った場所を照らし出す。


 鎮座する石の塔。

 生える木の棒。

 鼻腔をくすぐる、線香の香り。 


 そこで着地が悪手であったと後悔する事となる。


「ようこそ、生の終着点へ! ここはアタシ”操死婦”の独壇場だ!!」

読了ありがとうございます。


簡潔に。

コミカルに。


引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。


「アホだなぁー」とか、

「ここの表現、独特だなぁー」とか、


そんな共感があれば、ブックマークや評価お願いできますでしょうか?

正直、励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ