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4日目/白い夜空

●図書館(夜)


 三枝若葉さえぐさわかばは、耳を疑った。


「なんでオレの名前を……」


 と、隣に張り付く妖艶な女性に問う。

 嗤い返す、妙齢な女性。


「ああ。アンタの事は知ってるよ」


 三枝若葉。

 通称、幽霊屋敷と呼ばれる三枝屋敷に暮らし始めた学生。

 これまで親戚を頼ってきたが、今回は大学進学を機に1人暮らし。


 唖然となる若葉。

 その瑞々しい唇から、自分の情報が漏れてきたからだ。


 明らかに初対面の女性。

 もし会っていたとしても、こんな扇情的な女性を忘れるはずがない。


「そうそう。見た感じだと家政婦メイド達とも仲良くやってるみたいだね。あそこの、ほら……1人仏頂面のヤツがいるでしょ」


 仏頂面。

 失礼ながら、その単語で思い浮かべる人は1人。


「……壱号、さん……ですか?」

 

「アイツ、根暗で超がつくほど真面目でしょ? あんなのと毎日顔が合わせられる若葉クンはマジでリスペクトなわけよ」


「……壱号さんと……お知り合いですか?」


 歯切れが悪い若葉の質問。

 それに拍車がかかったような返答。


「あー、うん、まぁ……そうかな、一応……昔馴染みってヤツ……?」


「じゃあアナタはもしかして……」



 屋敷について詳しい女性は、右手を若葉にかざす。

 伸び切った、ニットの袖。

 指先もスッポリ埋まったそれが、若葉の眼前にくる。


「――はは。正解。アタシも同じ穴のムジナなんだよ」


 と、反対の左手で袖を勢いよく、まくる。

 柔らかい曲線美のニットから飛び出たのは、肌色の腕ではなかった。


 青白い灰色。

 血を失った肌の色、日焼けした肌の色。

 それがパズルのピースとなって、腕を成している。

 

 しかも至るところ、ツギハギだらけ。 

 荒い縫合、ミシン目の糸。


「アタシは伍号。誰からも愛されない、ただの不死者ゾンビさ」



××××× ××××× ×××××


 

 まさに刹那の瞬間。

 

 急に物事が動きすぎて、認知が遅い。

 目が回り、強打した頭。

 そして、成り行きで絞められている首元。


 それらの若葉の体験を1つ1つひも解いていこう。

 

 

 数分前。


「アタシは伍号。誰からも愛されない、ただの不死者ゾンビさ」


「――ご主人様ッ!? 危ないですッ!?」


 視界の上から、褐色の少女が降り立つ。

 その印象的な白い髪は後ろ姿でも見覚えがある。


「弐号さぁ――ッ!」


 言葉を出した時、弐号が若葉ごと後ろへ下がる。

 思わず舌を噛んでしまう若葉。


「下がってください! 伍号は危険です!」

「……ひ、ひへん……?」


 痛さに耐えながらの、舌足らず。


「はい! 伍号お姉様は裏切り者です!」

 

 ふふ、とその慌てぶりに向こうから微笑が零れる。

 その表情は、まるで家族に向けたような温かい眼差しだった。


「久しぶりね、弐号。アンタは何も変わってないわね」

「……ええ、お久しぶりです。お姉様もお変わりなく……」


 徐々に後退する弐号。

 ゆっくり1歩、また1歩と追う伍号。


「そんなに怖がらないでよ。少し悲しいわ」

「いいえ、怖がってはいません」


 いつしか手元には鉄のクナイが握られている。

 しかし、その切っ先は小さく震えている。


「いいのよ、アンタはアタシに勝った事がないものね。さぁ力の差は歴然よ。その男を渡しなさい」


 いい子だから、と青白い手を伸ばす伍号。


「――いいえ! ご主人様には危害を加えさせません!」


 と、クナイを背後の窓へ投げる。

 割れた窓ガラスのシャワーを浴び、弐号は若葉と共に外へ飛び出した。


 人間離れした、その跳躍。

 住宅街を駆けるその姿はまるで忍者のそれ。

 月を背景に黒い人影が2つ、闇夜を跳ねる。


「ぐぉ! ぁの! に、ごうざん!?」

「少し辛抱してくださいね、ご主人様! このまま逃げ切ります!!」


 弐号は、片手で若葉の上着をさらに持ち上げる。

 そのせいで首元の袖がズレて、咽喉を圧迫してくる。

 息苦しい事、この上ない。



 ――あれ、夜ってこんなに明るかったっけ?


 足元の、まばゆい人工の明かり。

 苦しさと比例して、かすんでいく視界。

 その白さが月夜を塗りつぶしていった。

読了ありがとうございます。


簡潔に。

コミカルに。


引き続き、それらをモットーにやっていこうと思います。


「アホだなぁー」とか、

「ここの表現、独特だなぁー」とか、


そんな共感があれば、ブックマークや評価お願いできますでしょうか?

正直、励みになります。

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