4日目/猫をも殺す
●三枝屋敷/広間(夕方)
三枝若葉は、玄関広間から伸びる階段で壱号と鉢合わせする。
この広い屋敷の中を探す手間が省けた。
「これからお出かけですか?」
「うん。少し図書館に調べ物をね。晩御飯までには帰るよ」
午後はずっと本を読みふけってしまった。
そのせいで、外道について知りたい事がさらに増えてしまったのだ。
「魔術も種類が多いんだね。黒魔術や呪術とか、いっぱい知らない事が溢れてきてさ」
そういいつつ、階段を下りていく若葉。
「ご主人様」
「え、なに? 壱号さん?」
「いえ、道中お気をつけください」
「うん、じゃあいってきます!」
2人、一緒に階段下まで降りて玄関に向かう。
「いってらっしゃいませ」
外出する主人を、最敬礼にて見送る壱号。
間をおいて、曲がった腰が戻る。
「………………」
現在、夕方の4時過ぎ。
午後もずっと本の虫だったというのに、元気な方だ。
「また外道について、お調べになってるのですね」
若干。
本当に若干だが、壱号の顔色が曇る。
「弐号」
「――はい、お姉様!」
「そろそろ日没です。ご主人様の警護につきなさい」
「わかりました!」
広間に響く、弐号の甲高い声。
姿はないが、物陰の気配が消える。
「私達、家政婦は主人あっての物。また主人を失えば、存在価値など皆無。そうなれば私達はまた――」
――オモチャ箱に仕舞われた、動かないオモチャと同じ。
「今回の主、若葉様には外道の世界に踏み込まないよう注意を払わなくては」
外道は所詮”外道”。
どこまで探究心を埋めても”外道”なのだ。
読んで字のごとく、正道を踏み外した正気を失う知識。
それを知るという事は、精神の自殺行為。
まさに火中の栗を拾いに行くようなものだ。
彼の祖父、三枝厳十郎は外道を探究するが故に正気を失った。
そんな彼に、かつての家政婦達が――
泣いて。
叫んで。
懇願しても。
彼は自らの外道を歩み続けたのだ。
そして、いつしか壱号は――この姿になった。
慈悲もない。
いや、彼にとっては慈悲だったのかもしれない。
半分人間とはいえ、魔術の影響で老化もある程度は抑えられている。
老いる事もなく、死ぬ事もない。
壊れる事はあれど、機械を繋げばすぐに直せる。
それを恩恵と彼は思っていたのかもしれない。
「――ッ」
気づけば、唇を深く噛みしめていた。
赤褐色の、オイルのような血液が顎を伝う。
人道的に反する。
常軌を逸している。
それが”外道”の行く末。
その人外たる知識は、あのような優しい青年には不必要だ。
すぐに心が壊れてしまうだろう。
「――こんな呪われた身体は、私達だけで十分です」
読了ありがとうございました。
断りとして、一言。
この作品は、『家政婦=メイド』として表現しています。
ご容赦ください(笑)
もし字面の表現の仕方や、
無理やりなギャグテイストに思う所がありましたら、
ブックマークや評価よろしくお願いします。
生暖かく投稿していきたいと思います。




