自首失敗
人を殺したので自首しようと思う。高校時代から五年間付き合った恋人、たか子に振られむしゃくしゃしてやってしまった。包丁を持って道へ出て、最初に通りかかった人を滅多刺し。なんの恨みもないおじさんを。正気に帰った頃には遅かった。怖くなって部屋に帰ったけど、殺してしまったのだ。外では騒ぎになっている。警察がピーポーピーポー鳴っている。まさか自分が通り魔になるなんて思ってもみなかった。両親に愛され、小学校、中学校、高校、大学と虐められることもなく順調に育ってきたというのに、こんなことになるなんて。犯行現場は家のすぐ近くだし、証拠も残してきてしまった。バレるのもすぐだろう。自首するのが賢明だ。しかし、自首しようにも一人で自首するのはちょっと心細い。仲間を集めることにしよう。私は胸に人殺しワッペン(人殺しです、と書いてあるワッペン)をつけ、仲間探しの旅に出た。まずお隣の村上さんのところに行こうかな。村上さんとは旅行に行った時のお土産を渡し合うくらいの仲だし、話しかけやすい。
ピンポーン
村上さん宅のチャイムを押す。豪邸だ。日本庭園みたいなのがあるし。武士が住んでいそうな家だ。そんなことを考えていると、旦那さん、村上たかおさんが出てきた。
「はい、どちら様?ああ、お隣の佐藤さん。なんか用ですか?」
たかおさんは歳のせいか浅黒い肌がよれておりなんとなくボケーッとしているが、目が鋭く筋肉質だ。高校時代は野球部でキャッチャーをしていたらしい。
「はい、あのー私先ほど人を殺しまして人殺しになったんです。だからまあこれから自首しようと思うんですが、一人で自首するのは心細くてね、一緒に自首する人を探してるんですけど、たかおさんは人殺しではありませんか?」
単刀直入に話をする。
「うーん、そう言えば小学校のときにいじめてたさとしってやつが、何十年か前にこじらせて人を殺してたような気がするなあ....。だからまあ、俺も人殺しかもしれんな。よし、一緒に自首しよう。」
やった!!早速仲間ができたぞ。私はたかおさんに人殺しワッペンを一つあげた。仲間ができて嬉しいな、仲間ができて嬉しいな。
「ありがとう。」
たかおさんは喜んでワッペンを受け取ってくれた。喜んでくれて嬉しいな。喜んでくれて嬉しいな。幸せな気持ちになった。
「二人だとまだ少し心細いので、一緒に仲間探しの旅に出ましょう。」
気分は勇者だ。人殺しを集めてパーティーを作り、自首するのだ。ワクワクするな。ワクワクするな。
「ちょっと待って、もしかしたら妻のまつこも人殺しかもしれない。」
そういうとたかおさんは後ろを振り返り叫んだ。
まつこ〜、ちょっとこっちおいで〜
は〜〜〜い
ドタドタドタドタ
まつこさんがドタドタ階段を降りてやって来た。初老のおばあさんだ。しわしわの顔が可愛らしい。耳につけたイヤリングが似合っていて若々しさを感じる。
「こんにちは。私は先ほど人を殺してしまったので自首しようと思うのですが、一人だと心細くて仲間探しをしています。まつこさんは人殺しですか?ちなみにたかおさんは人殺しだったようですよ。」
先程同様、単刀直入に話をする。
「うーん、そうねぇ。あ、そういえば昔大学教授をしてて、入試を採点してたんだけどね、どうせバレないと思って適当に採点してたのよ。そしたら、結構ミスってて、そのせいで大学に落ちた子が気を病んで自殺しちゃったみたいなの。だからまあ、私も人殺しかもしれないわねえ。一緒に自首、しましょうか。」
やった、仲間が増えたぞ。私はまつこさんにもワッペンをあげた。
「まあ素敵。ありがとう。」
三人も集まればまあいいだろう。交番へ出発するには十分じゃないか。後はまあ、旅の途中に仲間をポツポツ集めていこうじゃあないか。私は二人を引き連れ交番へ向かうことにした。
「みんなで自首、するぞー!!」
「おー!!」
「おー!!」
私の号令に二人が反応する。初老の二人だが、気合の入ったいい声だ。私は誇らしくなり、胸を叩いた。
ドンドンドン、ドンドンドン
ハハハハハ、ハハハハハ
その様子を見た二人が笑う。とても良い、とても良い雰囲気だ。旅は必ずや成功することだろう。そう、信じてやまなかった。
トコトコトコ、トコトコトコ
犯行現場と反対の道を真っ直ぐ進む。あっちには警察がうじゃうじゃいるからな。旅の途中怪しまれて逮捕なんてなったら駄目だ。それは自首ではない。ちゃんと交番へ行った自首するのだ。街路樹が綺麗に並べられている。いつもと通っている道だが、なんだか光り輝いて見える。
トコトコトコ、トコトコトコ
横断歩道だ。赤信号。信号を待たなければいけない。くそ、信号ごときが。まあ、これも運命なのだろう。心を落ち着かせる。隣に人が立った。赤信号仲間だ。目を向けると、たか子がいた。ついさっきまで恋人であったたか子。ショートヘアーで可愛い。まさか私が人殺しになって今から自首しようとしているなんて、思ってもいないことだろう。ああ、でももしかしたらたか子も人殺しかもしれない。仲間に加わらないだろうか。
「やあたか子。」
「まあ、たかし。どうしたの。」
さっき別れたばかりだというのにたか子は何事もなかったかのように返事をする。カラッカラのポーカーフェイスだ。そういうところが好きなのである。まあ、ふられてしまったのだけれども。
「あのさ、俺さっきお前に振られてむしゃくしゃして人を殺しちゃったんだ。それで今自首しに行くところ。もしたか子も人殺しだったらさ、一緒に行かない?」
いつもと変わらぬ口調で話しかける。
「へえ、そうなんだ。ああ、うーん、そうねぇ.......。私がふったせいであなたがむしゃくしゃして人を殺したのだから、私もきっと人殺しだわ。一緒に自首しましょ。」
やった!!たか子も人殺しだったぞ!!私は喜んで彼女にワッペンを差し出す。耳にかかった髪を掻き分けながら、彼女はそれを受け取った。仲間が増えたのである。
タラララッタッタラーーーーーン!!
「どうもありがとう。これからよろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「よろしくだわ。」
たかおさんとまつこさんと挨拶を交わす。
「さあ、仲間も増えたことだし、頑張るぞー!!」
「おーー!!」
「おーー!!」
「おーー!!」
四人で一列に並び、警察へ向かって行く。
ズンドコズンドコ、ズンドコズンドコ
仲間が増えたので、進み方も「トコトコトコトコ」から「ズンドコズンドコズンドコズンドコ」になった。三人で歩いている時よりも、強くなったみたいだ。やっぱり仲間が増えるのはいいなあ。もうちょっと仲間が増えると嬉しいんだけどなあ。そんなことを考えながらズンドコズンドコ歩いていたら、あっという間に交番についてしまった。まあ、着いてしまったら仕方ない。早速みんなで自首しよう。
何処にでもある、何の変哲もない交番だ。コンビニよりちょっと小さいくらいの大きさだが、コンビニのスイーツコーナーにあるプリンのような迫力がある。街の治安を守っているというオーラが溢れ出ているのだ。
ガラガラー
ごめんくださーい
「はい、どうしました?」
清潔感のある若々しい警察が対応してくれる。まだ経験も浅そうである。
「あの、すみません。人を殺してしまったので自首しようと思うのですが。」
「私も。」
「あ、私もです。」
「私もよ。」
みんなで一斉に自首する。よし、うまく行ったぞ!!歓喜の声をあげようかな!!
「はあ、そういうことなら私もご一緒させて下さい。」
むむ。そう言った警官の胸には、既に人殺しワッペンが付いていた。これは予想外。まさか警官も人殺しだったとは。
「わかりました。ではご一緒しましょう。」
私達は警察官を仲間に加え、交番を出た。また仲間が増えたのだ。しかし困ったものだよ。今回については喜ぶわけにはいかない。自首に失敗したのだから。危うく歓喜の声をあげそうになった。ああ、一体どこに行けば自首できるのだ。街を歩き回る。アリのように歩き回る。自信をなくしてしまった。私は焦っていた。ズンドコズンドコ歩く余裕はもうない。それになんか知らんが、その辺を歩いている人はみな例外なく人殺しワッペンを付けている。どんどん私の列に加わって行くのだ。上空にはヘリコプター。きっと中に乗っている人物が人殺しなのだろう。ああ、車もどんどんついてくる。ゆっくり歩く速度でだ。あっという間に大名行列のようになってしまった。そして、尚も成長を続けている。
ニョーンニョーンニョーン
突然携帯が鳴った。
「緊急飛行機警報。世界中の飛行機が〇〇市に向かっています。このままだと墜落します。早く逃げましょう。」
大変だ。パイロット達も自首するためにこちらに向かってきているようだ。このままだとみんな死んでしまう。早く自首して人殺しワッペンを清算しなければ。急げ、急げ急げ急げ。
必死になって街を歩く。どこだ、どこなら自首できるのだ!!コンビニに入っても皆ワッペンをつけている。学校でも、パン屋でも、スーパーマーケットでも!!どうすれば!!どうすれば!!どうすればいいのだ!!
ニョーンニョーンニョーンニョーン
ニョーンニョーンニョーンニョーン
警報音はどんどんどんどん大きくなっていく。もう駄目だ、もう駄目だ。みんなこの街で飛行機に墜落されて死ぬんだ。考えてみればもう随分歩き続けている。もう、やめてしまおうか。地べたに寝そべってしまおうか。そんな考えが頭をよぎったその時、ある看板が目に飛び込んできた!!タニシ産婦人科!!産婦人科だ!!産婦人科には赤さんがいる!!そうだ赤さん!!赤さんならば!!
私は産婦人科に突入した。赤さんならば人を殺しているはずがないのだ!!赤さんに自首するのだ!!
産婦人科のドアを開き、突入する。当然のように受付のお姉さんもワッペンをつけており、私たちについてきた。赤さんはどこだ、赤さんはどこだ!!診察室、待合室、授乳室、トイレ..........。ない!!ないぞ!!赤さん室がない。どこにあるんだ、どこにあるんだ。あ、階段があるぞ!!
タタタタッ!!タタタタッ!!
駆け上がる。全身汗まみれだ。こんなに運動したのはいつぶりだろうか。なんせ命がかかっている。早く赤さん室を見つけなければ!!
二階に到着。右、左。どっちに行けばいい。わからない。当然わからない。しかし、進まなければいけない。左に曲がる。すぐ壁に突き当たり右へ。真っ直ぐ廊下が伸びており、いくつかの部屋がある。扉の上にはペラペラのプラスチック板が取り付けられ、その部屋の説明をしている。一番近く、右側の部屋。
「赤さん室」
赤さん室、と書いてある。あった!!あったのだ!!ここは間違いなく赤さん室!!ありがとう神様。神は最後私を見捨てなかったのだ。ありがとう、ありがとう!!入る!!ドアを開ける!!
ガラガラガラー
沢山の赤さんがベットの上に寝ている!!やはり赤さん室!!ワッペンはつけていない!!流石赤さん!!私の読みは間違っていなかった。さあ!!自首!!自首しよう!入ってすぐ右に寝ている赤さんを覗き込む!!
むにゃむにゃ
赤さんは、寝ている。かわいい。ああ、私はワッペンを外しかけていた手を止めた。赤さんに自首なんて.....出来ない........。なぜなら、自首するということは罪を裁かれるということ。自首されるということは、人の罪を裁くことだ。人の罪を裁くということは罪だ。こんなに美しい赤さんに罪を背負わせることなんてできない。赤さんは美しい。人類の宝だ。なら私がやるべきことは、赤さんを産むこと。赤さんを作ることこそ生きる意味。さあ、赤さんを作らなければ。赤さんを、作るのだ!!
「俺たちのラブロードはまだまだこれからだぜ。」
私はたか子の手を取り言った。
きゅん♡
たか子は私に惚れ直したようだ。ポーカーフェイスのたか子も、私のドストレートなコメントに顔を赤らめている。さあ、早速子作りだ、セックス、セックスをするのだ。私はそのベッドに寝ていた赤さんを隣のベッドに移動させた。愛しているぜ、ベイベー。そして、たか子とセックスした。赤さんを、赤さんを作るのだ。
あん♡あんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあん♡あんあんあんあん♡あんあんあんあんあん♡♡あんあんあんあんあんあんあん♡♡♡♡♡あんあん♡あんあん♡
チュドドドドドドーーーーーン!!ドンガラガッシャーン!!
完