表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

いにしえの女帝

 

 〈Sideテト〉



 やっとの思いで、俺はエルの所まで這い上がり、悪魔が嗤いながらエルの腕を掴んだ瞬間、俺はエルの肩に飛びついた。

 思った通り、小さくて、軽いエルの身体は、俺の()()に耐えきれず後ろへザリザリと砂の上を滑った。


 悪魔が悔しげな顔で舌を鳴らすのが見えた。


「ちっ、重力場(グラビティフィールド)解除っ!」


 途端、俺の身体がまた砂に引き寄せられ始め、砂を巻き上げながら無事着地した俺は、そのまま勢いを殺す事なく走り出す。

 当然、エルの手を引いて。

 悪魔に何かされたってのは分かってたんだ。

 そのくらいで、すっ転んでやるかよっ!



「っテト!!?」


 驚いて俺を呼ぶエルと、悪魔の声が被った。


「逃がすか!!」


 悪魔の叫びと同時に、俺達の足元の砂がうねり、盛り上がった。

 砂は幾筋もの棒のように伸び上がり、気付くと俺達は、砂の鳥籠のようなものに閉じ込められていた。


「……な、何だ?」


 全方位砂の柵に囲まれた俺が、うめきを上げた。

 悪魔はこちらにゆっくりと歩き始め、せせら笑いながら、俺に言った。



「少年。―――……お前、もしかしてその子が好きなのか?」



 一瞬、俺の頭に血が上った。


「―――っ馬鹿野郎! っんなわけあるか!」


 そんなんじゃねえ。エルは、大事な“仲間”だ。

 柵を掴んで吠える俺に、悪魔はおかしそうに頷く。


「そっか。なら良かった。もしそうなら、初の失恋になるところだったぞ? ……なあ、ルナ・シー・()()厶女王陛下」


「!?」


 悪魔がそう言うと、エルは目を見開いた。

 そして言う。


「陛下……? そんなの、知らないです……。……でも、なんでエルの秘密の名前を知ってるですか?」


 秘密の名前?

 お前はエルじゃ? ……いや、きっと、あれだ。俺が“テオラドール”って名前を“テト”と名乗ってるとか、そう言うことだろ。

 何だよ“秘密”って、大袈裟な。


 悪魔は翼をたたみ、檻の前で立ち止まると、溜息をついた。


「そっか。……可哀想に、もう記憶まで捨てちまったのか。―――良いだろう。少し、昔話をしてやる。なに、ほんの5000年ちょい前の話しさ」


 そう言うと、悪魔は、聞いてもないのに、何かを語り始めた。


 ……いや、だがこれはチャンスだ。何か、逃げる手段を考えるんだ!

 俺は、そう思い、そっと檻から手を離し、エルの手を握ると、ポケットの中を弄り始めた。




 ◆




 ―――昔、黒い女神が言った。


 “常闇の支配者を創ろう。夜の世界に置いて、その力は無尽蔵。ウルフの血を従えさせ、時に、吸血コウモリの姿を取ることができ、その唾液には呪いを宿す。そして、その姿は麗しく、(ルナ)を写す黄金の髪、鮮血の如きその唇、何者にも侵されぬ白い肌を持つ。闇の、覇王だ”


 そして、二体の“ヴァンパイア”の始祖がこの世に

創られた。

 男体と、女体。

 二体は夜の世界へと解き放たれた後、それぞれ違う行動を取り始めた。


 男のヴァンパイアは、暗い森の深くに根城を造り、夜な夜な人の生き血を啜った。


 女のヴァンパイアは、人間達のとある国の都に行き、そこで、一人の幼い姫君となり変わり、その国を自分の餌場とした。


 ……その姫君の名前こそ、“ルナシェルム”。正確な名前は、“ルナ・シー・エルム”。

 かつて勇者さえ手玉に取り、大帝国を築き上げた女帝の名だ。





「―――そして、貴方御本人でもある。ルナ()を冠する、姫君……」




 そう言った時、悪魔の目が見開いた。

 続いて、その腹から、赤黒い血が吹き出した。




 ―――俺が、悪魔の作った砂の檻を細切れにして、ついでにその腹の皮を一枚切り裂いてやったからだ。


 ざまーみろっ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ