芳香
「うお!?」
「うひゃぁ!!」
俺達は同時に悲鳴を上げた。
箱から漏れ出した光が、ふわふわと形を成し、まるで意思でもあるかのように、俺達を包み込んだ。
……っマジで気持ち悪ぃ!
「何だよコレ! おいエル、お前のモンだろ!?」
「しし、し……知ってる筈無いですっ……、ひゃあっ! なんか、お肌に溶け込んできます! ……はっ!? これはもしや、神秘なるボディークリーム!?」
「な訳あるか!!」
俺達は互いにテンパりながら、ウゴウゴと蠢く光に包まれた。
必死に抵抗した。
うがーとか、ぬう―――んとか、叫びながら。
……そして……。
……。
…………。
なんか……
入られた……。
俺とエルは、蓋の開いた箱の前で、言いしれぬ敗北感に苛まれ、膝をついて、言葉も無く項垂れていた。
……精神的に、かなりの大ダメージを受けているが、キモい光に入り込まれた体には、特に異変は無い。
俺はため息を付きながら、その場に座り直し、蓋の空いた小箱を手に取った。
「ったく、何なんだよ? コレは」
「……おじいちゃんの形見です」
俺の質問に、エルは律儀に答え返し、エルもまた、片膝を立てた半あぐらをかいたような姿勢に座り直した。
髪が砂についてる。……勿体ねーな。
―――カタン……
「?」
その時、小箱の中から、乾いた音がした。
俺は慌ててその中を見る。
中に入っていた物、……それは
「石のナイフ? ……いや、骨か?」
俺はそれを取り出してみた。
月明かりの下で見るそれは、子供の小指ほどの、白い象牙で出来たような、鋭いナイフ。
「あ! テト、また私より先に見てるですか!? 何が入ってたですか?」
エルは、俺の行動に口を尖らせながらも、好奇心に負け、ワクワクとした顔で俺の手元を覗き込んで来た。
ってか、お前がどんくさいだけだからな。
「……ナイフ?」
俺の持つ石器のようなナイフに目を止めたエルは、あからさまに眉を寄せた。
……きっと、爺さんの形見で、めちゃくちゃ苦労して開けた箱の中身だ。もっと、とんでも無い宝を期待してたんだろうな。
ま、そんなこと、俺にとっちゃどーでもいい事だ。
だから俺は、エルにナイフを差し出しながら、言ってやった。
「たまには外に出るのもいいもんだろ。開いて、良かったじゃねーかよ」
「!」
俺の言葉に、エルはナイフを受け取りながら、それは綺麗な笑顔で頷いた。
そんで、それに気を良くした俺は、調子に乗って言ってしまったんだ。
◇◇
〈Sideエル〉
「……エルは、エルなんだろ。目が赤いのとか、全然関係ない。夜だけで良い。また、俺達と冒険しようぜ! そんで、みんなでいつか、“グリプス地下大迷宮”を完全攻略してやるんだ! 爺さんの夢を、叶えてやろうぜ」
テトは、そう言って、私に右手を差し出してきたです。
テトはいつもそう。こっちの事情も、都合も、全くお構い無しに、こうして皆を巻き込むのです。
……だけど、その手を取った時は必ず、ハチャメチャだけど、間違いなく楽しいことが起こるのです。
一人は退屈。
私だって、本当は、外に行きたい。
皆とまた一緒に……。
私は、思わずその手を、取ろうと腕を伸ばしました。
だけど、その手を、触れようとした時、フワリと風に乗って、良い香りがしてきました。
「!?」
私は思わず鼻を押さえ、その場に蹲りました。
「ど、どうした!? エル、どっか痛いのか?」
鼻を抑えたら息ができなくて、口で息を吸い込みました。
すると、口からその良い香りが入ってきて、私の胸がざわつきます。
どくんどくんと、体中で感じられるくらい、心臓が脈を打って、爪の先まで震えるくらい熱くなって、私の頭の隅で、声が……、絶対に、あり得ない事を囁く。
―――テトを、
食べたい。
「エルっ!!」
―――ッドンッ!
私は、心配そうに、私の背中をさすってくるテトを、思いっきり突き飛ばしたです。
「放っておいてくださいっ!! 私には、もうっ関わらないで下さい。……おね……がい、します……。おねがい……」
私は、口と鼻を必死で覆い、格好悪く泣きながら、あっちに行って欲しいとお願いしました。
だってありえない。
友達を、……テトを食べたいって、何ですか?
おかしいのです! 私は病気で、変になってるです!
テトとは、もう、会ってはいけないのです!!!
「……エ、エル……」
私の力はテトみたいに強くなくて、私が突き飛ばしても、テトはよろめきついでに、2歩下がった程度。
ですが、私の心の壁バリアーのおかげか、テトはそれ以上こっちに来ようとはしませんでした。
私は恐怖と、空腹と、悲しさと、色んなものがごっちゃになってしまって、もう、しゃがみこんだその場から1歩も動けなくなっていました。
その時、フワリとテトとは違う匂いがしました。
同時に、月に雲でもかかったのか、あたりが一瞬暗くもなりました。
けれど私は上を見上げる気力もなく、膝を抱え蹲っていたのです。
―――すると、突然、すぐ頭の上から、聞いたことの無い声がしたのです。
「―――……ようやく、見つけた」
本編読んでくださってる方は、声の主が誰か、分かるんだろうなぁ……(*´ω`*)
そうです。ヤツが爆弾落としてきます……!
ともあれ、読んでなくても面白く読めるものを目指してます(゜∀゜)
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