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ルナエクリプス②


「―――……まだ、何かあるですか?」


 エルの冷たい響きを持つ言葉で、俺は自分が何をしているのかに気付いた。


 ―――去ろうとするエルの、細い手首を掴み上げていたのだ。



「……っ」


「痛いですっ。……なんで、なんで、テトはそんな酷いことばっかりするですか? 私はっ、誰の迷惑にもならない様に、お家にいたいだけなんですっ……なのにっ……」


 もう、睨む力すら無く、メソメソと泣き始めるエル。


 ―――違うんだよ。


 泣かせたかったわけじゃない。笑わせたかったんだ。

 離してやらなくちゃ。だけど離したら、また逃げられる。

 逃げんなよ。ここに居ろよ。別に、ちょっと変かもしれねーけど、“エル”は“エル”だろ。

 泣くなよ。

 そうじゃないんだ。


 なんで……



 俺の目からも涙が零れそうになったとき、ふと俺は、エルの手に握られたパズルがボンヤリとした光を放ってることに気付いた。

 そして思わず手を離し、エルに言う。


「エルっ、お前のパズル、光ってる!」


「……へ?」


 俺の言葉に、エルは涙と鼻水を垂らしながら、手に持つパズルを見た。


「え、……え?? ホントです! 光ってる!! な、何でですか!?」


「知るか!」


 慌てふためくエルに俺は怒鳴るようにそう言ったが、ふと、1つの事に気づいた。


「―――……あ、月が……」


「! 月食です!」


 そう、まだ闇に染まり切らない藍色の空に、ポッカリと浮かぶ満月の端が、じわりと黒く侵されていた。

 二人で月を見上げながら、俺はポツリと呟いた。



「―――……なあ、もしかしてそれって、月食の間だけ解けるパズルだったりして……」




 ―――その時、エルが動いた。



 もともと瞬発力には優れたやつだったが、それはもう、目にとまらぬ速さで、シュパッてその場に座り込んだ。


「あり得るですっ! 流石テト! 目の付け所が違うです!!」


 エルはさっきまで泣いてた事をすっかり忘れて、パズルに集中し、まさかの俺まで褒め出す始末……。


 ……なんか、心配してたのがアホらしくなってきた……。


「どうだー? 解けそうか?」


「とっ解くです! パズルに今まで見えなかった模様が浮かび上がってきてるのです! それを組み合わせれば、多分! ……今までずっと齧り付いて頑張ってたのです。通常時の図柄は、完っ璧に頭に入ってるですよぉっっ!!」


「ほーかー。ガンバレー」


 気合を込めてそう言うエルに、俺はもうやる気をなくして適当な相槌だけを返し、ごろりと砂に寝転がった。。

 ……月食を見に来たのに、月食を見ずにパズルに打ち込むエルと、その隣で月食を見ずに寝転がる俺。



 ―――……これってどうなんだろうな?




 ◇◇◇




 ふと空を見ると、月を侵す闇は、反対側に抜け始め、入の部分は、また煌々とした光を放ち始めていた。



 ―――……しまった、寝てた。  



 俺は身体を起こし、また背中を丸めてるエルに声を掛けた。


「おーい、解けたのか?」


「っ解けたはずなのですっ! なのにっ、開かないのですっ!」


「はぁーー?」


 俺はエルの手元を覗き込んだ。

 パズルの箱は確かに何だかハーティー草を編んだリースのような模様が綺麗に浮かび、箱の蓋は若干緩んでカタカタしている。


「あ―――ーっか――――――っな――――――っい―――ーーっで――――――ーっすぅ――――――ーーっっ!!ムァ――――――ーっ!!!」


 青筋浮かべて箱の蓋を引っ張るエルに、俺は溜息をついた。

 そして、ゼーゼーと息をつくエルから、箱を奪い取った。


「早くしろよ。月食が終わっちまうぞ。ここ迄出来たなら、あとは石かなんかで叩きゃ開くだろ」


 俺は手近に落ちていた拳大の石ころを拾い、振り上げた。


「え? ちょっと、テト!? 何やってるですか!」


「楽ショー楽ショー」


「あっ、だっ、……っ駄目えぇぇ―――ーっ!!!」


 ―――ッガゴンッ!!


「あだぁ―――っっ!!!」


 振り下ろす瞬間、箱にエルの手が伸びてきて、俺は咄嗟にそれを避けたせいで、自分の親指に石をヒットさせた。


「あっ、ごめんなさいですっっ! 大丈夫ですか? ゴメ、……っゴメンなさいですぅー!!」


 気の小さいコイツは、俺が指を打ったのを自分のせいにして、必死で謝ってくる。

 別にこんくらい、どってことないんだが。


 そして俺は、ふともう一度空を見て驚いた。

 月の闇が、まさに月から離れていこうとしてたからだ! 


 これ、まずいじゃん! 


 俺は再び石を振りかぶって、力いっぱい振り下ろす。

 エルのやつは、俺の足でエルの肩を抑えてるから、今度は邪魔できない。


「でぇえぇぇぇ―――ーっ、開けっ!」


「ごっ、ま……待ってぇ!!」


 俺の足の下では、エルが、必死にバタバタと手を振ってる。

 俺は、蓋の緩んだ箱を石で打ち砕いた。



 ―――バキィ!!!




 途端、箱から眩しい光が漏れ始めた。




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