表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

終焉の序章①

 やがて日は沈み、紫の雲を残しつつ闇が迫る黄昏時、俺達は地下の穴蔵からそっと抜け出た。

 エルはなんやかんやで大きなリュックを持ち、俺の後を付いて走る。俺は、着の身着のまま荷物なんてないから、エルの荷物を持ってやってる。

 東の厩まで、走れば20分で着く。約束の時間に、全く問題はないだろう。

 途中ゆらりと歩く沙オバケ達を見かけたが、裏道を知り尽くした俺は、難なくすり抜ける事ができた。

 街の奴らにも、砂お化けたちにも見つからないように街を出る。

 致し方ない脱出ではあるが、親父やこのグリムポリスをエルと一緒に出られると思えば、なぜかホッとしたような気持ちになった。


「テト、アッチにも砂おばけが居るです!」


「よしっ、こっちの道だ」


 こう見えて、エルはかなり勘がいい。

 俺はエルの指示に、確認すら取らず走った。



 ◆



 二人の子供達が街を縫うようにひたかけている時、街から少し離れた南の砂漠に、1匹の羽の折れ曲がった悪魔があぐらをかいて座っていた。

 悪魔は砂丘の上から街を眺め、ポソリと呟く。


「……そろそろか?」


 悪魔がそう呟いたとき、悪魔の目の前の砂が渦を巻くように盛り上がった。

 そしてそれは一人のひび割れた女の姿を象り、跪いた。

 女が言う。


「見つけました、ルシファー様」


 ルシファーがニヤリと笑い、立ち上がった。


「只今後を付けさせております。いかがしましょう」


「―――……そうだな。派手にやるか」


「!?」


 女の目が見開き、ルシファーを見つめた。


「……よろしいので? 開放の時まであと十年の筈ですが」


「そうだ。()()手をだちゃいけないな。だが、俺達の存在を知らしめるにはそろそろいい頃合いだと思うんだ」


「つまり、隠蔽の必要はもうないと?」


「そうだ。ある日突然襲われるより、多少心構えも出来てたほうが、人間共も諦めもつくだろ。まだ、手を出すことは許さん。もし掠り傷1つつけてみろよ。……その魂欠片も残さず消してやる」


「……」


仲間であるはずの亡者を、庇おうともしないその物言いに、女は言葉を詰まらす。

そんな女にルシファーは、可笑しそうに咲いながら言った。


「―――……だが、人間に被害が出ないなら()()()()()()()。そう、亡者共に伝えておけ。お前も暴れていいぞ。エンヴィー」


 エンヴィーと呼ばれた女が、不気味に口を歪めながら言う。


「……相変わらず、ルシファー様はお優しい」


「ハッハッハー、褒めても何も出ねーぞ?」


「ふ、もはや何も望むはずもありません。望みの物は既に与えられました。この魂、ルシファー様の望みのままに利用されればいい」


エンヴィーの言葉に、ルシファーの目が光った。


「―――……そうか、なら行け。壊してこいよ、仮染めの“平穏”ってやつをさ」


「はっ!」


 エンヴィーは頭を下げると、その身を再び砂に崩した。


 一人立ち尽くすルシファーが、明かりの灯り始めた街を見下ろす。

 風が吹けば、夜空のような濃紺の髪が揺れた。


「じゃ、俺も行くか。おイタをしたガキにゃ、仕置が必要だからな。……そんで、姫を鳥籠から救い出さねーと」


 そして、ふわりとその体は空に吸い込まれていった。



 ◆



 〈Sideテト〉


 俺達が厩に着いてみれば、見張りはいなかった。

 篝火だけが焚かれ3頭の馬が落ち着いて佇んで居る。

 俺はそっと荷物をおろし、鞍を馬の背中に装着した。

 爺さんから、俺は一通りの事は学んだ。……と言うか、しごき上げられた?

 文字の読み書きや、武器の扱い、魔法や、馬の乗り方も当然の嗜みと言われ教えられた。

 戦闘や実践を見越してだとか言って、裸馬の乗り方を徹底的に叩きこれたが、今回はエルとの二人乗りだ。鞍があった方が、エルは安定して乗れるだろ。


 鞍を装着し、馬の綱を解こうとした時、俺は妙なことに気付いた。馬を繋ぐロープの他に、何故か厩の天井の梁に括り付けられた細い金属のチェーン。


「……なんだ? こりゃ」


 輪っかにして通されたチェーンの端は、梁の近くで鍵をかけられている。

 俺の身長じゃ鍵開けは、ちょっと無理そうだ。

 どうやって鎖を切ろうかと考えていたら、厩の向かいの小屋の陰から、一人の影が出てきた。


「!?」


 とっさに身構えたが、それはキキだった。

 俺は、ほっと肩の力を抜き、キキにヒソヒソと声をかける。


「キキ、サンキューな。ちょっと妙な鎖で繋がれてて手間取ってたんだ。……見張りは大丈夫そうか?」


 キキは何故か下を向き、唇を噛みながら言った。




「……テト、ごめんね。やっぱりアンタは行っちゃ駄目だ」




 一瞬、何を言ってるのか、全く理解出来なかった。


 そして、その意味に気づいた瞬間、俺は大きな腕で後ろから頭を押さえつけられ、砂に顔を埋めていた。

 少し遅れ、後ろからエルの悲鳴が上がる。


「はわぁ―――ーーっっ!! ごめんなさいですぅ!!」


 見ればエルが男に取り押さえられ、その小さな体にぐるぐると縄を撒かれようとしていた。

 俺は、キキを睨む。


「どういうつもりだ? キキ」


 キキは俺を見下ろしながら言った。


「テトの話を()()()んだよ」


「?」


「テトが話した通り、私も砂オバケの物をスッてやった。その後、親父に頼んで斬って貰った」


「!?」


 親父に頼んだ? こいつ、親父のこと嫌ってたはずだ。何をやってんだよ?


「そしたら斬ったその体も、砂になって崩れ落ちた。親父もびっくりしてた。ダンジョン以外でモンスターが出るなんてって。……だけど、その話が事実なら……」


 そこでキキは言葉を呑み込み、エルを見た。そして再び俺を睨むような目で見た。

 そして、信じられない言葉を吐いた。



「エルは化物なんだろ? 目を覚ましな、テオラドール。それは人間の敵だよ。退治しなきゃならないんだ」



 ……なにいってんだ? こいつ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ