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テトの決断

 日がやや傾き始めた頃、俺とキキはエルの家に着いた。


 ―――ドンドンドン


 俺はエルの家をノックする。


 あいつは何故か俺のノックで、俺だと分かるらしく、結構な確率で開けてくれる。

 わざわざこんなに待たずとも、鍵をピッキングして入れるが、爺さん曰く、“招き入れられ無ければ入ってはいけない”らしい。

 間もなく、扉の向こう側からエルの声がした。


「テトですか?」


「ああ、俺だ。キキも一緒にいる。開けてくれ」


「キキさんも? わかったです。鍵は開けるので、10秒後に入って下さい」


 ―――…カチャ


 扉の向こう側で、鍵が開けられる音がする。

 10秒後と言うのは、光が差し込まない部屋の奥へ、移動する時間だろう。

 俺は頭の中でカウントをしながら、エルの家の扉に、運んできた“✘”印の着いた板を釘で打ち付ける。

 キキが妙な目でオレを見ながら言う。


「ほんとに仲直りしてたんだ。……その板変だよ? テオ、頭おかしいよ」


「おかしくねえ。中で全部話すって言ったろ。それに元々喧嘩してねえよ。さ、行くぞ」


 そう言って、俺達は中に入った。

 入り口から部屋の奥へと続く廊下には、間隔をおいて3枚の黒いカーテンが掛けられている。光を遮るためだな。

 その3枚の分厚い漆黒のカーテンを潜りなら、キキが言う。


「相変わらずエル、光には弱いんだ」


「直射日光がどうしても駄目なんだと。夕暮れの残光なら平気なのにな」


「……ほんと、おかしな病気よね。いろいろ調べても見たけど、そんな病気、聞いたこともない」


「……そのことも、話す」


 俺がそれだけ言って黙ると、キキは首を傾げた。

 三枚目のカーテンをくぐり抜けた先にエルがいた。

 その姿を目に留めたキキが、嬉しそうに声を掛けた。


「エル! 久しぶりー! 元気?」


「あ、はい! お久しぶりです!」


 その明るい声に気圧され、エルは引きつった笑みを見せながら答えた。


「わー、いつぶり? 半年……ううん、もっとぶりじゃん! 相変わらずちっちゃいなー!」


 嬉しそうに再開を喜ぶキキを俺は遮った。


「おい、それより大変な事になってんだ。二人とも話を聞いてくれ」


「?」


「大変な事……ですか?」


「ああ。砂お化け達が、俺達の居場所を嗅ぎ回ってる。この街の家をシラミ潰しに調べてる。ここを調べに来られるのも、時間の問題だ」


「!」


「?」


 驚くエルに、首を傾げるキキ。


「ちょっと待ってよ。それじゃアタシが分かんない。砂オバケって何? 着いたら全部話すって言ってたでしょ? ちゃんと話してよ」


 キキの言葉に、エルが驚いた。


「は、話すって……? テト、一体何を……」


 エルは多分、自分がヴァンパイアかもしれないという話をされることにビビってんだ。

 だけど、キキは俺達の仲間。俺達に協力してくれるはずだ。

 俺は笑いながらエルに言った。


「心配すんな、キキは仲間だから」


 そしてエルの肩を掴んで言う。


「―――……それにな、このままじゃいずれ捕まる。日が沈み次第、逃げるぞ。この街を出るんだ。俺も一緒に行ってやるから」


「「!?」」


 俺の言葉に、二人の目が、丸くなった。


「ハア!? テト、街を出るってどう言う事!? 家出ってそんな子供みたいな事……」


 ……一応、6歳は子供だと思うぞ?

 俺は、肩をすくめながら言う。


「家出って言うか独り立ちだよ。もう、街には戻って来るつもりは無い。馬を盗って来れば、夜の内に砂漠を抜けられるから、後は道中稼ぎながら旅を続ければ良い。……キキには馬を調達するための見張りをして欲しいんだ。お前の父ちゃん、自警団のリーダーだろ? クソッタレの親父にひと泡吹かせてやれるぜ」


「……いや、おかしいよ? 訳がわからない! ちゃんと説明してよ!」


「分かってる。だけど……はじめに言っておく。信じられない話だろうけど、本当だからな?」


「? う、うん」


 ……俺だって未だに信じられない。

 俺はそうキキに念を押して、昨晩の出来事から今までのことを話した。




 ◆◆




 話を聞き終わったキキが、唖然としてる。


「し、……信じられないけど……」


 キキはそう呟いて、俺をちらりと見た。

 俺は頷く。


「本当だ。そして砂オバケ共は、今も俺とエルを探してる」


 キキはゴクリとつばを飲み込んだ。


「……そ、そう言えば親父が昼間“今日は見ない顔が多いな”とかボヤいてた。まさか、それが?」


 そしてキキはじっとエルを見て、小さく首を降る。


「……無いね。エルが化物なんて」


 俺は、笑いながら頷いた。


「だろ!? エルは俺らの仲間だからな」


 その言葉にキキも笑い、エルもホッとしたように笑った。

 しかし、その時突然ドアをノックする音が聴こえた。


 ―――トントントン……


「「「!!?」」」


 俺達は同時にドアを振り向いた。


 ―――トントントン……


 鳴り止まぬノック音に、俺は、耳打ちするようにエルに尋ねる。


「……知り合いなら分かるんだろ? 誰のノック音だ?」


「き、聞いたことの無い音です」


 縮こまる俺達に、キキが声を若干震わせながら言った。


「フ、フン! 二人とも何ビビってんの!? ア、アタシが見てきてあげるよっ」


 そう言って立ち上がるキキに、俺はコソコソと小さな声で言った。


「もし砂オバケだったら、“エル”って名乗ってくれ! 奴らはエルの事を“金髪”ってわかってるから、黒髪ショートのお前はスルーされるはずだ」


「っ!? さ、されなかったら!?」


 俺の頼みに、キキは必死の形相で振り向いてきだが、俺は胸を叩いて言ってやった。


「そん時は、俺がおまえを助けてやるよ!」


「……」


 キキ無言で頷き、扉へと歩いていった。

 俺達は念の為、空になっている水瓶に身を隠す。


 ―――ガチャ


「……誰?」


 キキ声がする。

 続いて、くぐもった男の声が聴こえた。


()()()お伺いしてすみません。ここに女の子が一人で住んでると聞いたので、もう一度確認に上がりました。“エル”と呼ばれているようなのですが、ご存知ですか

 ?」


「っ……あ、アタシが“エル”だよ! なんか用事!?」


「……本当に?」


「そう、アタシがエルだ!」


「……そうですか。やはり確認済みで良かったようで。失礼、人違いでした」


「おととい来なっ!」


 ―――パタン


 扉の閉まる音と、その後に訪れた沈黙。

 やがて、キキの足音が部屋に戻ってきた。



「……も、もう、出てきて大丈夫だよ」



 キキの声に、俺達は水瓶をすり抜け、部屋に戻った。

 エルが泣きそうな声でキキに言う。


「キキさん、あっありがとうございましたっ!!」


「……」


 キキは答えず、呆然と呟く。


「……あいつ、手が……ひび割れてた」


「ヤッパ砂オバケだったか。……今回は誤魔化せたけど、いつまでも持たねえぞ。エル、荷物をまとめとけ。なるべく少なめにな」


「ま、待つです! もしそうなら、別に盗まなくても、エルのお金で馬を買うのですよ!」


「ガキにまともな商売してくれるわけ無いだろ。もうな、こんな見た目で俺達は“弱者”なんだよ」


「「……」」


 大人は宛にならねえ。

 親父はクソで尚更宛になんてできねえ。


「……テトは、本当にエルと行くつもり?」


 キキの言葉に、俺は頷いた。

 爺さんとの約束だ。俺は絶対にエルを裏切らない。

 クソ親父なんざ、……俺なんか居なくなったほうが、逆に喜ぶはずだ。

 キキは、立ち上がりながら暗い面持ちで言った。


「……分かった。今日の日の入りは6時50分だ。7時半に、東門の厩で待ってる」


 俺は頷き、去っていくキキの背を見送った。


 俺は決めた。エルと共に、このグリムポリスを去る。




 ―――だけど、俺のこの“決断”が、とんでもない事を引き起こすキッカケになってしまう事を、この時俺はまだ知らなかった。




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