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ジジイの夢②

「―――……何故、そう睨む? 別に私は君を怒ったり、殴ったり痛めつけてはいないはずだが?」


 ジジイの言葉に、俺は叫んだ。


「っ殴られたほうがまだマシだよっ! なんでっ、何でこんなコトすんだよ!? ゴミにゴミと認めさせることがそんなに楽しいのか!? そんなもんいらねえ! 殴れよっ!!」


 怒りのせいで、俺の目からは、無様にもボロボロと涙が溢れた。

 ジジイをの顔から笑顔が消えた。


「……分かってるじゃないか。ちゃんと自分がゴミだと」


「!?」


「そう、私には力も富もあり、そして君には何も無い。居ても居なくても、なんの差支えも無い存在なんだよ」


「……っ」


「我等とは比べるに値しないほどに劣り、愚かで、ゴミ。なのに、何故、そんな下らぬ生き方しかできぬゴミが、そうしてのうのうと生き残るのだろうと思うんだ」


ジジイが、まるで俺達とは別世界で生きているとでも言いたげなその物言いに、俺は戸惑った。


「何を……?」


「まあ、君には関係ないな。君のような生き物が存在しているだけで、私にとっては目障りすぎただけ。すまないね、意地悪をして。私は、きっと君に、嫌な思いを抱かせてしまった」


ジジイはそう言うと、その顔にまた、あの貼り付けたような笑顔を浮かべる。


「だけどね。私は君が私を嫌っているその万倍は、君のことが嫌いなんだ。―――……そういう訳だから、さっさとゴミを拾って消えろ」


 ジジイの低い声に、一瞬背筋が冷たくなった。

 そして、言われるがまま、俺はその泥に塗れたズボンを拾った。



 ◆



「……なんで付いてくる? 消えろと言ったはずだが」


 ズボンを握りしめ、パンイチで後ろを歩く俺に、ジジイが声をかけた。


「……」


 俺だって、なんでこんな腹の立つジジイについてなんていくのか分からない。

 分からないけど、何故か追いかけてしまう。


「いい加減にしなさい。私はこれから家に帰るんだ。君も家に帰りなさい」


「家なんてねえよ」


「そんな筈はない。人間なら誰しも帰るべき家が在るはずだ。それが例え、一般的な“家”の形をしていなかったとしても」


「あんな家、俺の帰る場所じゃねえよっ!」


「……。……やれやれ、ちょっとからかうつもりが、とんでもない甘ったれの家出少年だったようだ。“家の人”に、心配をかけたいお年頃か」


「な!? あんな奴、俺の心配なんかするはずねえ! 今頃とっくに、ビョーキモチの女でも連れ込んでるはずだ!」


「……はあ、参ったな。いいかい少年。私に付いてきても家に入れてあげることはない。何故なら、私の家には私の宝、“孫娘”が居るからだ。君のような口の悪いゴミに、会わせるわけには行かないんだよ。さっさとズボンを履いて帰りなさい」


 ジジイは宥めるような優しい口調で、俺を逆撫でをする言葉を吐く。

 気付けば、俺は叫んでいた。


「っならっ! 俺に頭下げてお願いしろ!! ズボンを履いてくださいってな!! 俺は……、俺はゴミじゃねぇ!!」


 自分でも、何を言ってるか意味が分からなかった。

 だけど、このジジイに何としても俺がゴミじゃないと言わせたい一心だった。


「……。……自分がおかしな事を言ってる事に気付いてるかい?」


 ジジイは目を丸くしながら、俺に聞く。

 自分でもおかしな事を言ってる自覚はあったから、俺は無言で頷いた。


「……じゃあ、まず君が謝りなさい。あんなはした金などどうでも良いが、誠意は見せてもらおう。ズボンを履いて、身なりを正し、心から人のものを盗んで悪かったと謝るんだ」


「……」


 そこで、俺は漸くズボンを履いた。そして、ジジイに頭を下げ、今まで心をこめたことのない言葉に、本来のままの意味を込めて、言った。



「ごめんなさい。ジジイの財布を盗って、悪かった」



 俺の言葉に、ジジイがため息を付く。


「……だから、ジジイでは無く……」


 その時、高い声が響いた。


「おじいちゃぁ――――――んっ!」


 その声に、ジジイが驚いた様に顔を上げる。


「エル!?」


 ジジイがそう呼んだ先には、金色の長い髪が目につく、お高い人形みたいな女の子が、嬉しそうに咲いながら立っていた。


「エ、エル!? 一体どうしてここに!?」


「もう、日も沈んだですよ。エルは、おじいちゃんを迎えに来たのです」


「……っ」


 ジジイが女神でも見るような、恍惚とした表情でエルを見つめた。

 ―――……分かった。これは噂に聞く、“親バカ”って奴だな。

 俺には無縁なものだし、正確には“ジジイバカ”だけど。


 エルはジジイに駆け寄ると、その脚に抱きつき、ふと俺を見る。


「誰ですか?」


「ああ彼は……」


 ジジイが口を開こうとした時、それに被せる様にエルが弾む声で言った。


「もしかして、私の“友達”なのですか!? お誕生日プレゼントに私、“友達”が欲しいとおじいちゃんにお願いしていたのです!」


 ……誕生日プレゼントに友達ってなんだよ……。ペットの犬猫じゃねんだぞ? どんだけ盲目の“親バカ”なんだ、このジジイ。


「あ、……あの、エル、その……コレは違ってっ……」


 しどろもどろに説明しようとするジジイに、途端エルの肩が落ちる。


「あ……ち、違ったですか……。そ、そうですね! エルのお誕生日は、まだ先なのです。明日迄のお楽しみなのです!」


 って、明日かよ。

 そして明らかにジジイの顔に、焦りが浮かんでいる。

 俺はジジイにコッソリと言った。


「……別に俺は構わねーぜ。友達になってやっても」


「っふざけるな! お前なんかが良いわけ無いだろうっ!!」


 ジジイが、俺をくびり殺しそうな顔で睨んできた。

 エルが少し悲しそうに、俺に笑顔を向けながら言う。


「早とちりしてしまって、すみませんです。……()()()()()()()()()()()()()()()


「「っ」」


 コイツ、完全にプレゼントと勘違いしてやがる。そして、うっかり“プレゼントのパッケージの中身に気付いてしまった”的な気まずさで、俺に接して来てやがる。


 その時、突然俺の肩に鋭い痛みが走り、俺は思わず小さな呻き声漏らした。


「……ってぇ!」


 ジジイの手が、俺の肩を握り潰さん勢いて、指を食い込ませていたのだ。

 そしてジジイは引き攣った笑顔のまま、俺に言う。


「―――……っお前を、……お前を、エルの友として見合う男に、私が鍛える! 明日から、必ず毎日ここに来い」


「……」


「……分かったなっ!?」


 俺は、肩の痛みも忘れて、ニヤリと笑って言った。


「分かったよ。()()()



 ―――このジジイの慌てふためく顔が見れる。


 始めは本当にそれだけだった。



夢は、これで終わりになります。


爺さんの過去話しは、またいずれ!\(^o^)/

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