6話
「暁さん!私を女にしてください!」
「誤解を招く言い方はやめましょう?如月先生?」
深く頭を下げる如月先生に暁は冷静に突っ込む。
「ゆ、雪が如月先生を女に…」
「千夜も顔を赤らめて言わないで。ますます誤解を招かれるから」
「ご、ごめん…」
「いやぁ、でも如月先生がわざわざ雪の家に来て頼み込むとはなぁ」
あっはっはと蓬は笑う。
如月先生との突然の出会いから数ヶ月後、高校初の夏休みを迎える間近の休日に突然如月先生が訪ね、この状況に至る。
「とりあえず、もう昼食なのでそれ食べてから話は聞くってことでいいですか?」
「はい!」
先生が承諾したため、キッチンへ向かう。
「えーっと、冷蔵庫には…卵がいっぱいあるし、ご飯は…2人が来るから多めに炊いてあるしオムライスにしようかなぁ」
そう決めた暁は、リビングにいる3人にオムライスにすることを告げる。
「それで、包む派かふわとろ派かを聞きたいんだけど、3人はどっち?」
「どっちでもいけるが、どっちかって言ったら…ふわとろ派だな」
「私も」「わ、私もです!」
「ということは皆ふわとろ派なのか。了解」
くすっと笑ってキッチンへ戻った雪風の背中を見て如月先生は一言
「私の専属メイドになってくれないかなぁ…」
とうっとりした表情で言う。
そこに蓬が話しかける。
「…先生」
「…あ、はい。どうしたの?」
「メイドって言ってますけど、一応男ですよ」
「…」
ポカーンと数秒呆けた後、顔を真っ赤にして
「え!?…あっ、そっか!暁君、男の子だった…」
「はい、一応」
「私も勘違いすることが良くあるので、先生がそう思っちゃうのも仕方ありませんけどねー」
「だ、だよね!?私『一応』間違ってないよね!」
「まあ、女装させれば完全に女の子になりますけどね。…あ、今年の文化祭メイド喫茶にして雪女装させようよ」
「お、いいなそれ。料理もできるし接客もできるだろうし完璧だな」
ウシシと悪巧みをしそうな表情で会話をする2人を、またもやポカーンと見つめてしまう。
「…2人はいつから暁さんの昼食を食べに来てるの?」
疑問に思った如月先生が聞くと、2人は少し考える仕草をして
「確か中1の3学期らへんからか?」
「そのぐらいだったはずだよー。あの時は雪から誘ってきて、初めて手料理を食べたんだよねー」
「そうそう。あの時はレストランで出せそうな腕ですぐに雪の料理の虜になったんだよなぁ」
「今はあの時よりも腕が上がってて個人的に三つ星レストランに出しても問題ないんじゃないの?ってレベルだもんねー」
「そ、そんなに前から…それに三つ星レストランレベルって…」
雪風の料理がますます楽しみになってきた如月先生は、2人との雑談に花を咲かせて料理が出来るのを待った。
◇
「おいしい……」
出来上がったオムライスを一口分すくい、口に入れた瞬間に如月先生はそう呟いた。
「お口に合って良かったです」
にこりと笑いかける雪風に首を振りながら
「お口に合うなんてレベルじゃないよ…これは虜になっちゃう…」
「うんまぁい…」「おいひぃ…」
2人を見ると恍惚とした表情で味わっている。
そして4人はあっという間に完食した。
「では改めて…暁さん、私に料理を教えてください!」
「……」
「先ほどの料理を食べて私の決意はより固くなりました…ぜひ私に料理を教えてください!」
「そんなこと言われましても、レシピ通りに作ってるだけなんですけどね…それでも良いなら構いませんけど」
「ありがとうございます!それじゃあ毎日来ますね!」
「まあ、夏休みに入ったら構いませんよ」
そんなこんなで決まり、ソファに座ってお腹をさすりながら
「それにしても美味しかったなぁ…あの味がまだ鮮明に残ってる…」
「良かったね先生。私も雪に料理学んでるから負けないよ!」
「結城さん、それは私のセリフよ!」
笑みを浮かべながら睨み合う2人を雪風と蓬は
「…しばらくは騒がしくなりそうだなぁ」
「まあ、雪なら何とかなるだろう?」
「蓬も手伝ってよ」
「俺は傍観者の立ち位置にいるから」
と軽口を言い合いながら見つめていた。