5話
今現在、外崎先生、如月先生、雪風、蓬、千夜は家庭科室で対面していた。
というのも、先ほどの如月先生の一言の後、蓬と千夜にもお礼を言ったためクラス中の視線が3人に向けられていた。
放課後、教室で事情を聞こうにもクラスの皆が誰も教室を出ずにとどまり聞き耳を立てていたため、急遽使われていない家庭科室に移動することになった。
そして今に至る。
「それで」
外崎先生が会話を切り出す。
「如月先生?どういう事かお話してもらえますか?」
「どういう事かと言われましても...道端に倒れていた私を御三方が助けてくれたっていう事なんですけど...」
「そこですよ」
「そこ?」
「道端に倒れていたっていうのはどういう事ですか?」
「...」
如月先生は顔を赤らめて俯き、やがてぽつりぽつりと話し始めた。
「えーっとですね...あの日私が資料を家に忘れてしまったと言って取りに帰ったじゃないですか」
「はい」
「それで30分くらいかけて家に着いたんですけど...家に着いた時に資料がカバンの中に入っていたことを思い出しまして...」
「はい」
「それで家に駐車してあった車で学校へ戻ろうとしたんですけど、30分もかけて帰ってきたのに無駄足だったことに萎えてしまって、それすらも忘れて歩いて戻っていてしまって」
「...」
「その途中でお腹がとてつもなく減っていることにも気付いて...」
「...」
「もう学校まで半分くらいだったので頑張って歩いてたんですけど、限界で倒れてしまって」
「...」
「そして道端で倒れているところを御三方に助けてもらってご飯も食べさせてもらいまして」
「あの、如月先生」
「はい、なんでしょう?」
「失礼ですが...」
そして置き呆れた表情で一言
「馬鹿なんでしょうか?」
「なんで!?」
「いや馬鹿としか言いようがないですよ、なんですか車で帰ろうとしたけど歩いて戻って来たって」
「それは先ほど説明したじゃないですか!」
「ええ説明されましたよ。ですがその原因にあまりにも呆れてしまって...」
「なんでぇ!?普通の事じゃないんですか!?」
「普通の事じゃないんです。如月先生が馬鹿なだけです」
「えぇ!?」
と、2人のやり取りは十分ほど続いたが、その会話を見ている3人に気付くと中断し、3人に向き直る。
「とりあえず、3人ともありがとう、この馬鹿を助けてくれて」
「「「あ、いえいえ」」」
「ちょっと外崎先生!馬鹿とは何ですか!」
「...如月先生、あなた勉強できましたか?」
「うっ...」
「つまりそういう事ですよ」
「うぅ...」
涙目になっている如月先生を放って再度3人に向き直る。
「改めてありがとう、如月先生とあなたたちの接点は分かったから帰宅していいわ。無駄な時間を取らせてしまってごめんなさいね」
「いえ。それでは外崎先生、如月先生、さようなら」
そう言って家庭科室を出る。
◇
「それにしても、先生が教師で、しかも私たちの担任だとは思わなかったね」
「そうだなぁ。でもなんで出勤した時に車を使わなかったんだろうな」
「それは気になったけど、一つ分かったことがあるの」
「あ、それは私と蓬も」
『如月先生って...天然だね』
その一言が重なった暁達は、声をあげて笑いながら帰路を辿った。