3話
「はぁ~、緊張するなぁ」
「今日は午前終わりだからリラックスしろよ」
「そうそう!そのあと雪の家でご飯食べるんだからね!」
「はいはい」
雪風は微笑を浮かべる。
入学式当日、3人は高校に向かう道を歩いている。
「それにしても」
千夜が周りを見渡して言う。
「高校に行く途中の道にこんな凄いのがあるなんてね~」
「そうだね、綺麗だなぁ」
雪風が道路に沿って生えている桜を見上げながら言った。
いわゆる桜並木というやつで、春になるとこの景色を見るために訪れる人も多い。
雪風が微笑みながら桜を見ていると、カシャカシャとカメラのシャッター音が聞こえた。
隣を見ると、千夜と蓬がスマホをこっちに向けてカメラを連写していた。
「ちょちょ!なんで撮ってるの!」
慌てて顔を隠すが時すでに遅く、2人は既に撮り終わっており先ほど撮った写真を見てほぅっと息づいている。
「...何が撮れたの?」
2人に聞くと、神秘的なものを見たような顔で
「天使と桜が撮れた」
と言った。
「……???」
言われた意味が分からず首を傾げていると、蓬がスマホの画面をこちらに向けた。
そこに写っていたのは、桜の木々の隙間から射し込む光が雪風の顔を照らして中々に映える写真だった。
気のせいか秋風の周りに淡い光が舞っているように見える。
「……」
「これは一生の保存版ですなぁ...」
「そうですねぇ。我ながら良いものが見れました」
2人のその会話が恥ずかしくなった雪風は
「...早く行こう」
と言って歩みを速めて学校へ向かった。
◇
「まさか全員一緒とはね」
「まあその方が色々と楽なんだけどな」
「そうだねー。今年も退屈しない年になりそうだなぁ」
3人は掲示板に貼られてあったクラス分け用紙を見て、全員同じ5組であることを喜んだ。
「それにしても、私達以外に話している人も案外いるもんだね」
千夜が周りをチラッと見てそう感想を述べる。
「そうだな、自転車で来れる距離にある中学校と違って高校は電通の人とかも入るし、入学式当日は皆静かにしてそうなイメージだった」
「それは分かる。...けど」
雪風は周りをチラリとみて2人にしか聞こえない音量で呟く。
「皆こっちを見てる気がするんだけど」
「そりゃそうだ」
ケラケラと笑って暁を指す。
「雪のその見た目と制服が合ってないんだ。見られるのも当たり前だと思うぞ」
「...それは自覚してるけどさ。こうして見られると気になるっていうか」
そんなことを言う暁を見て2人は
((ああ、この様子だと桜並木からずっと見られてたことも気付いてないんだなぁ))
そんなことを思っていると、教室の扉が開き男の教師が入ってきた。
「おはよう。この後始業式と入学式があるからホールへ向かってくれ。1年の場所は向こうに掲示してあるからそれを確認して並び順は適当にな」
それだけ言ってすぐに出て行ってしまった。
やがて他の1年生が移動し始め、それに便乗して移動した。
ホールへ着き、適当に座って数分待っていると、始業式が始まり、その後すぐに入学式が始まった。
特に何も起こることもなく終わりクラスに戻ると、先ほどの男の教師が入ってきた。
「それじゃあ今日はこれで解散だ。明日から忙しくなるから皆ゆっくり体を休めて明日元気に登校するように。以上だ」
そう言って教室を出ていった。
その後、クラスの皆がゾロゾロと帰宅していく。
「私達も帰ろう!」
「ああ、今日はスーパーに寄ってくのか?」
「そのつもり。何か食べたいものある?」
「食べたいものかぁ...たまにはシェフのお任せでも頼もうかな」
「同じく」
「了解。それじゃあ...本来は休日に作るものなんだけど、パスタにしようかな」
「なぬ、パスタとな?」
「そうしようと思ったんだけど、ダメだった?」
「パスタなら...」
2人は顔を見合わせ、同時に言う。
「「カルボナーラでしょ!」」
声を揃えて言う2人をクスクスと笑いながら
「お二方本当にカルボナーラが好きなんだねぇ」
「当たり前よぅ!」
「私達のパスタランキングはカルボナーラが1番!」
「あはは、それなら私もカルボナーラにしようかな。それじゃあスーパーへ買い出しに行こう」
「「合点承知の助!」」
暁の作るカルボナーラが食べられると分かりテンションが高い2人を引き連れ、スーパーへ向かった。
その後、クリームがしっかりと絡まった麺に適度にまかれたベーコン、麺の色とかけ離れ過ぎない色合いの味がしっかりとある卵黄にパラパラと振りかけられたブラックペッパーで盛り付けられた、雪風の手作りカルボナーラを2人が幸せいっぱいの表情で食べたのは言うまでもない。