11話
あれは雪風が7歳の時、両親が仕事で溜まったストレスを発散する目的でアメリカの方へ旅行しに行った。
1週間程の旅行で、最初の3日間は遊んだり、観光したりして楽しんでいた。
しかし4日目の昼頃に事件は起こる。
その日、雪風家は都市から離れた郊外の方に観光しに行っていた。
だが観光地に行く途中の住宅街で、道の隅でぽつんと座っている、雪風と同じくらいの女の子がいた。
不思議に思った雪風は両親にそのことを伝え、その女の子の方へ駆け寄り、声をかけた。
「ねぇ、どうしたの?」
「んぇ…?」
顔を腕の中に沈めていた女の子は顔を上げて雪風の方を見る。
その女の子は潤んだ目で雪風を見て、ポツリと呟く。
「お父様とお母様とはぐれちゃって…」
「そっか。…なら、一緒に探そう?」
「え…?」
「君のお父さんお母さんも探してると思うし、ここでじっとしてるなら、君のお父さんお母さんがいそうなところを探した方がいいんじゃないかな?」
「…それも、そうだね。分かった、お父様とお母様を探す!」
「決まりだね。私は雪風、君は?」
「私は霞。よろしく、雪風」
「うん、短い時間だろうけど、よろしくね」
そうして2人は立ち上がり、雪風の両親の元へと事情を説明する。
「なるほどなぁ…それなら全力で探そう!」
「えぇ!幼い子を知らんぷりして観光なんか出来ないわ!」
「父さん、母さん、ありがとう!」
「いいってもんさ!それじゃあ霞ちゃん、一緒に両親を探そうな!」
「はい!よろしくお願いします!」
「うんうん!じゃあ、まずは状況を整理しようか。霞ちゃんの両親は、今日どこかに行くって行ってたのかい?」
「えぇっと…ごめんなさい、分かりません…」
「そっか…両親がいないって気付いたのはここに来てから?」
「はい。珍しい蝶々がいたので追いかけていたら、いつの間にかここへ…」
「なるほど…ちなみにその蝶々が見つかった場所ってどんなところだった?」
「ええと…大きなビルがたくさん並んでて…あ、あそこです!」
車の窓から見える街を指してそう叫ぶ。
「じゃあそこでご両親を探しましょう!」
そこからは順調に霞の両親の場所に近づいていった。
そして、都会から少し離れた草原でついに両親が見つかった。
「お父様!お母様!」
霞が叫ぶ。
その声が聞こえたのか、両親がばっと振り向き、目尻に涙を浮かべる。
「「霞!」」
2人が駆け寄る。
たまらず霞も雪風の手を握りながら走る。
そして互いの距離数メートルまで近づいたその時、なにか奇妙な音を立てながら何かが向かってくるのが見えた。
4人は立ち止まり、その物体をじっと見つめる。
やがて見えた物体は…
時速100kmは出てるかという速さで向かってくる、黒く塗りつぶされた車だった。