10話
「宝城霞…?もしかしてあの時のことを…?いや、でもどうしてここが…」
「雪?どうしたの?」
小声で呟く雪風に千夜が不安な表情で話しかける。
「それが…」
雪風は今来たメールの内容を伝える。
内容を聞いた3人はどういう顔をすればいいのか分からず、不安げな表情で雪風を見つめる。
「その宝城霞って人は、雪は知ってるの?」
「知ってるも何も、私の知り合いのご夫妻の子だし…そういう意味でも、私個人としても深い関係というか、何というか…」
雪風自身、知っている相手ではあるがその後の言葉をどう伝えようか迷っている様子で語る。
「まあ知っている相手なら多少は大丈夫だろうが…その人が苦手なのか?」
「まあ、色んな意味で苦手…」
「なるほどなぁ…」
「でもその人、暁さんの家に来るんですよね?一体いつ…」
如月先生がそこまで言った時、ピンポーンとインターホンの音がリビングに響く。
「…まぁ、私と同じ16歳の女の子だし、特に何もないと思うけど…とりあえず行ってくるね」
「ああ、俺たちはここで待ってるよ」
「分かった」
雪風はそう言って玄関に向かう。
扉を開けた先には、1人の少女が静かに佇んでいた。
「…えっと、どちら様ですか?」
その言葉に少女はにこりと微笑みながら、口を開く。
「…久しぶり、雪。10年以来だね」
「…霞さん?」
「えぇ、見違えたでしょう?」
「あ、うん。あの時よりも綺麗になってて驚いたよ」
「雪もぱっと見女の子にしか見えなかったわ。とっても可愛い」
「えっと、ありがとう?まあ立ち話もあれだから、入って」
「ありがとう。お邪魔します」
2人は家の中に入り、3人がいるリビングへ向かう。
「ところで、今日は何の用で?」
「そうね…今日は大切な話があってね」
「そうなんだ…今日は友達が泊まりで来てるんだ」
「あら、そうなの?」
「うん」
そして2人はリビングに入る。
「お、雪」
「…その子が?」
「うん、この人が宝城霞さん」
紹介された霞は一歩前に出て優雅にお辞儀をする。
「初めまして、宝城霞です。宝城グループ社長、宝城光洋の娘です。以後お見知りおきを」
『ほ、宝城グループの…は、初めまして』
「それで、大切な話というのは?」
「簡潔に申し上げて一言…あの時の契約、覚えてるよね?」
「……まぁ」
少しの沈黙の後、頷いた雪風を満足そうに見て
「なら話は単純ね。結婚式場は押さえてあるから、2年後によろしくね」
『け、結婚!?』
その単語に3人が驚きの声を上げる。
「…えーっと…やっぱりそうなりますよね…」
対して雪風は納得した顔でそう言う。
「ちょ、雪!どういうこと!?」
千夜が雪風に質問すると、雪風は3人に向き合い、事情を話し始めた。
「えー、簡単に言うと、まだ5歳の頃、宝城グループと契約をしてしまいまして…私が18歳になったら、結婚をするということでして」
「霞さんと?」
こくりと頷く。
「な、なんでそんな契約を!?」
「えー…話せば長くなるんだけど」
「構わないよ!とにかく理由が聞きたい!」
「まあ、そういうことなら…いいかな?霞さん」
「ええ、構わないわよ」
「では…」
3人に向き直り、語り始めた。