9話
「ふわぁぁぁ〜」
「あ、如月先生おはようございます。朝食までまだ時間あるのでくつろいで下さい」
「あ〜。暁さん、おはようございます…」
合宿という名のお泊り会の2日目、一足早く起きた如月先生はリビングへと降りてきた。
大きなあくびをして椅子に座る。
そして雪風が朝食を作っている姿をボーッと眺める。
テキパキと動く後ろ姿を見ながら、如月先生はふと疑問に思ったことを口にする。
「暁さんって」
「はい?」
「いつからそうなったんですか?」
「…というと?」
「一人暮らしとか、その女の子っぽい見た目とか、過去に何かあったのかなと気になって…」
「あー」
雪風は手を止めないまま納得した声で頷く。
「まあ、この見た目については簡単に言えば両親や知り合いが原因ですね」
「え、そうなんですね」
「はい」
朝食を作り終わった雪風が料理を持ってリビングに行く。
「どうぞ、今日の朝食はBLTサンドです」
「おぉ…!いただきます!」
「いただきます」
もぐもぐと咀嚼し、やがて如月先生が口を開く。
「でも両親や知り合いのせいって、どう言うこと?」
「それはですね。知り合いのご夫妻が、産まれて3年くらいの私を見て『この子は男の娘の方がいい』と言ったらしくてですね」
「は、はぁ…」
「まあ私の両親は乗り気じゃなかったらしいんですけど、女装した私を見て率先して女装させたらしくて」
「そ、そうなんだ…」
「まあ特にいじめとかもなかったので良いんですけど、そのせいで私自身特に疑問に思わずにここまで育っちゃったんですけどね…」
「でも、幸せなんでしょ?」
「それはもちろん」
「良かった」
にこりと笑う。
「これでも担任だから、生徒が幸せかどうかは一番重要だと思ってるし、幸せなら先生は嬉しいわ」
その言葉に目を丸くした後、やがて微笑んで
「ありがとうございます。私も先生が担任でよかったです」
と言った。
「それで、話は戻るんだけど、一人暮らしの方は何で?」
「そちらは単純な話ですね」
お茶を一口飲み
「今のうちに一人暮らしに慣れた方が、後々が楽だからですね」
「へぇ〜。もうそこまで考えてるんですね」
「はい。まあ、一人暮らしに興味があったというのが一番の理由なんですが」
あははっと同時に笑う2人。
「「おはよぉ〜」」
その時、蓬と千夜が降りてきた。
「あ、2人ともおはよう。朝食作っちゃうから座ってて」
「りょうか〜い」「うぃ〜す」
キッチンで料理を作っている雪風を少し眺めた後、如月先生は2人に向かう。
「2人とも、暁さんに感謝しなよ?」
その言葉を聞いた2人は眠そうな顔をしながらも
頷く。
「当たり前ですよ」
「私達、雪がいないと生きていけない体ですもの。感謝してもしきれませんよ」
「えぇ、それが良いと思うわ」
「でも先生、急にその話をするってことは何か話したんですか?」
「う〜ん、それは暁さんに聞いてね?」
「え〜!なら雪にさりげなく聞いておこうかな…」
「聞こえてるよ。はい、BLTサンドだよ」
コトっと音を立てて置かれた皿と雪風を交互に見て
「てへっ」
と舌を出して笑う。
「私と如月先生が話した内容なんてそこまで重要じゃないし、それを食べながら聞けば良いよ」
「あ、じゃあそうさせてもらいます。蓬、食べよう」
「おう」
蓬と千夜は手を合わせて
「「いただきます」」
と言って食べる。
「ほれでそれで、ふはひがはなひた2人が話した内容ってはひ何?」
「ほらほら食べ物を口に入れたまま喋らない。そんなに急かさなくてもちゃんと話すよ」
その時、雪風の携帯が鳴る。
「ん?」
携帯を取り出し、メール画面を開く。
目に入った文字を見て驚愕する。
差出人:宝城霞
宛先:暁雪風
件名:雪、久しぶり♪
今日雪の家に行くから、また色んなことシようね♪