練習1
「よっちゃんおはよー」
彼女の名前は浦原知華、同級生である机が私の前というだけでなれなれしくしてくる。毎朝しょうもない話ばかりしてくる彼女には嫌気が差すが、数少ない話し相手ということもあり、縁を切れないでいる。まあ席替えが来るまでの辛抱だ、それまでは行動パターンを解析して楽しむとしよう。
「朝から勉強とは精が出ますな~。昨日よっちゃんの言ってた小説読んだけど、すっごく面白かったよ。その・・・なんかこう、斬新で!」
のけぞるようにこちらを見る。邪魔にはなっていないが、相手が困るとは考えないのか?腹立たしい。授業前のこの時間はやることがないのか?彼女はいつも私に話しかけてくる、しょうもない内容を。無視するとさらにうるさいので「よかったわね」と返す。それに私は勉強しているのではない。昨日間に合わなかった宿題をやっているだけだ。
「今日は昨日言ってた陸上部の朝練に参加したんだけどさ~つまんないの、ただ走るだけじゃなくてもっと趣向を凝らすべきだと思うのねわたし。」
彼女は運動部に入りたいようだが、特に何をやりたいというわけではないらしい。「青少年たるもの汗を流さねばなっ」と依然言っていた。様々なクラブに顔を出しているようだが今日も彼女の欲求を満たしてはくれなかったようだ。おとといはソフトボール、先週は体操部を見ていたようだがどちらも話にならない、とは彼女の談。いっそ相撲や少林寺拳法でもやればいいのにと思う。
「おっ、授業始まるね。後でこの前の話の続き教えてね、よっちゃん」
そもそもよっちゃんとは本当に私のことだろうか?藁科良子だからそう呼んでいるのだろうが、本人にまだ確認は取れていない。念のため「うん」と小声でつぶやく。その声には気づきもしないようで、彼女はじっとこちらを見つめているようだった。