第五話~転生したらーー【自主規制】--だった件~
俺は今、一心不乱に紙コップの中身をかき混ぜていた。緑色をしたドロッとした何かを混ぜていると、ふざけた転生神の相手をしていた時に感じたストレスが消えてなくなるように思えた。
緑色の何かを机の上にぶちまける。
どろどろとした緑色がゆっくりと広がっていった。そこに俺は手をのせて、水のようだけど弾力があり、沈んでいくような不思議な感覚を気持ちよく感じた。
そんな心地よい雰囲気をぶっ壊すのは、いつもこいつだ。
「っぺっぺ、口に入っちゃった。あーもう、なんでいつも爆発するの」
「そりゃお前が得体のしれない何かを入れるからだろうっ! 普通に作れ、普通に」
「普通って分からないわよ。というか、なんで私とダーリンでスライム作りなんてしているの。他のことして遊びたい。ねぇダーリン、イチャイチャしよ」
「黙って働け、もっと手を動かして大量のスライムを作れ」
「いやー、もうねばねばのドロドロはいやー」
俺たちは、スライム作りをしていた。子供のころよく作ったおもちゃだ。たとえなんでも呼び出せる謎空間にいるからって、青くてプルプルした定番のあれは出さんぞ。
にしても、久しぶりに触るスライムがなんとも心地よい冷たさを感じさせてくれる。
ほんと、気持ちいよな。
「もう、なんでスライムばっかり……。あ、私わかっちゃった」
あいつがくだらないことを考え始めたってことだけはわかった。
「ダーリンってばもう、エッチなんだから。いくらスライムを作ったっておーー【自主規制】ーーにはならないわよ」
ん、今変な音が聞こえたような。というかこいつ、何を言おうとしていたんだ。
なんかこう、乙女とか女神らしかぬ発言をしようとしたんじゃないかと思っている。こいつ駄女神だし。
こんなやつはほっておいて、もう少しスライムを堪能しようと思い、机にぶちまけられたスライムに触れようとした。
そこで俺は気が付いた。
俺が作っていたのは、緑色のスライムだよな。だったら、机の上に置いてある、シルバー色のプルプルはなんだ。
目が疲れているのかな。目と口が見える。
俺は目をこすり、もう一度机の上を確認する。
やっぱり、シルバー色のプルプルは存在した。
「僕の名前はリーー【自主規制】ーー。悪いスライムじゃないよ」
ん? やっぱり変な音が聞こえて、一部がよく聞こえなかった。
「ねぇ君、もう一度言ってくれないかな」
「僕の名前はリーー【自主規制】ーー。悪いスライムじゃないよ」
やっぱりよく聞こえない。
首を傾げていると、サクレが楽しそうな笑みを浮かべながらやってきた。
「ふふ、仕事が来たのね。さぁ、麗しの女神、サクレ様が転生させてあげるわ。それでダーリン、どこに迷える魂がいるの」
サクレは俺の周りを探し始め、銀色のプルプルで視線が止まる。
「僕の名前はリーー【自主規制】ーー。悪いスライムじゃないよ」
「ん? よく聞こえなかったわ」
「やっぱりそうなるよな。途中で変な音がかぶってよく分からない」
「ああ、その音はここの仕様でそうなっているのよ」
「僕の名前はリーー【自主規制】ーー。悪いスライムじゃないよ」
「うるせぇ、少し黙ってろっ!」
シルバー色がぷるぷると震えた。俺はそれを了承の合図だと認識し、サクレとの話に戻る。
「ダーリン、プルプルに怒鳴るなんてマジウケるんですけど」
「晩飯抜きにするぞ」
「ごめんなさい、ちゃんと話しますからそれだけは許して」
「よろしい、んで、仕様ってなんだよ」
「前にここでなんでもできるって言ったでしょ」
「うん、確かに言ったな」
「だけど本当に何でもできちゃうといろいろとまずいのよ。例えば宗教問題とか、著作権的な問題とかね。あと卑猥な言葉とかも引っかかっちゃうかな」
「一体何の話をしているんだよ」
「だからね、ここの仕様で、表現に問題のあることは全て自主規制されるのよ。例えば、私がここで突然全裸になったとしても、謎の光と湯気さんがどこからともなくやって来て仕事をしてくれるわっ」
この転生の間、無駄に高性能だな。
それに一体何の意味があるのだろうか。
「それはわかった。じゃあこれは」
俺は、テーブルの上でいまだプルプルしているシルバー色のスライムを指差した。
「ああそれ、この前転生させてあげた子だね。すぐに戻ってきた」
「うう、もう喋っていいですか。この転生、すごくつらかったんです」
突然、俺の隣にいたスライムが泣き出した。
そして、転生後の生活を語ってくれる。
「僕は転ーー【自主規制】ーーの件の大ファンなんです」
「俺も好きだったぞ、その作品は。マジであのーー【自主規制】ーーは最高だったな」
「そうなんですよ。それで転ーー【自主規制】ーーに憧れていた僕は、この転生をきっかけに、物語に出てくるような展開になるようお願いしたんです」
「それで、スライムに転生したと。サクレ、転生先ってなんでもありなのか」
「基本的にはなんでもありよ。魂を循環させることが目的だから、転生さえしてもらえれば、あとはなんでもいいわ」
「なるほど、スライム君は、無事に転ーー【自主規制】ーーと同じように……ってうるせぇわ! ごほん、君は無事に理想の転生が出来たという訳だ」
そう思っての発言だったが、スライム君は顔? を下に向けて、何やら悲しそうな雰囲気を漂わせ始めた。
「理想の転生になると思ったんです。チートスキル的なものもらって、晴れて物語の主人公になれると思ったんです。でも、実際は違いました」
「ちなみにどんなスキルをもらったんだ」
「鉄壁と韋駄天です」
なんだろう、色とそのスキルを言われると、経験値がたくさんもらえる銀色のあいつを思い出す。
「そしたら冒険者に追いかけまわされまして……」
「っぷ、あなたを倒したところで経験値1しかもらえないのにね。うわぁ、君を倒した冒険者が可哀そう。今頃経験値が全然もらえなくて唖然としているんだぜ、ぷぎゃぁ」
「「…………」」
とりあえず、げんこつしておいた。
個人的には、この馬鹿垂れ女神のせいで、このスライム君が大変な目に遭っているという事実に憤りを感じる。。次の転生では幸せになってもらい……。
「もう、あなたのせいでダーリンに怒られちゃったじゃない。もう、ランダム転生しちゃえ」
「あ、あああああああああーー【自主規制】ーー」
「スライムーーーー、ってなんで今自主規制されたっ! まて、お前今なんて言ったのっ!」
俺の言葉は届かず、スライムは転生された。
とりあえずサクレには鉄拳制裁を加え、あのスライムが転生後にどうなったのか問いただした。
そして、アメーバに転生してしまったことを知ってしまったのだ。
強く生きてほしいと思う。頑張れ。
読んでいただきありがとうございます。
僕もあの作品は大好きですっ!
次回もよろしくお願いします。