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優しい神様と意地悪な神様

作者: 雨雪

 昔々、あるところに優しい神様と意地悪な神様がいました。

 二人の神様は言い争いが絶えません。

 どちらとも、自分こそが素晴らしい神様だと言って憚らないからです。


 二人の神様は言い争いに決着を付けることにしました。

 一緒に一つの村へ行って、そこに住む人間の願いを叶えることにしたのです。

 より村人達から喜ばれた方が、本当に素晴らしい神様だというわけです。


 急に二人の神様が訪れたことに、村人達は驚きました。

 しかし、どんな願いも叶えてくれるというのだから喜ばないはずがありません。


 二人の村人が同じ願いを言いました。

「お金持ちになりたい!」

 優しい神様は、一人の村人の前にたくさんのお金を出してあげました。

 その村人は大喜び。

 意地悪な神様は、もう一人の村人にお金持ちになる為の方法を伝えました。

 それを聞いた村人は、隣の村人の前に積まれたお金を恨めしそうに眺めつつ、どこか遠くの方へ消えていきました。


 二人の村人が同じ願いを言いました。

「ずっと体の具合が悪い。この病を癒してほしい!」

 優しい神様は、一人の村人の体の悪いところを全て治してあげました。

 その村人は大喜び。

 意地悪な神様は、もう一人の村人に病気を治す薬の作り方と病気にならない為の生き方を伝えました。

 それを聞いた村人は、しんどそうな表情で薬の元となる草木を求めて森の中へ消えていきました。


 二人の村人が同じ願いを言いました。

「誰からも愛される人間になりたい!」

 今度は意地悪な神様が先に、一人の村人に全ての人々に愛される為の佇まいを伝えました。

 それを聞いた村人は、どうしたものかと思案していましたが、少しすると町の方へと消えていきました。

 優しい神様はその後に、もう一人の村人に誰からも愛されるようになる魔法をかけました。

 その村人が笑顔となった瞬間に、周りの村人がみんな彼の元へと押しかけた為、彼の表情は分からなくなってしまいました。


 神様達は、どちらの方が素晴らしい神様か村人達に尋ねました。

 しかし、村人達は誰からも愛される魔法がかけられた村人に夢中で取りつく島もありません。

 これではどちらが素晴らしい神様か分からないと、二人の神様は空高く消えていきました。



 その後のこと。

 神様が出してくれたたくさんのお金は、村人の前からすぐに消えてしまいました。

 誰からも愛される魔法がかけられた村人に、そのほとんどを貢いでしまったからです。

 僅かに残ったお金も、自分が好き放題するのに使った為、もはやその村人の前には何もありません。

 大金を持っていた頃の生活が忘れられずに、富豪からお金を盗もうとして捕まってしまいました。


 体の調子を整えてもらった村人は、何年かの間健やかに暮らしていました。

 しかし、具合が良くなかったからと無茶ばかりを繰り返した村人はまた体を壊してしまいました。

 村人は、その病を治す術を知りません。

 もう一度神様が来てくれないかと願いながら、病のうちに息を引き取りました。


 誰からも愛される魔法をかけられた村人は、その魔法の通り、誰からも愛される人間になりました。

 自分が好きな人間からも、嫌いな人間からも、苦手な人間からも、全ての人間から好かれました。

 誰も彼もが彼のご機嫌を取ろうと必死で、彼は誰とも腹を割って話すことが出来ませんでした。

 そのうち彼は、人間が誰も住んでいない山奥で、いつ来るかもしれぬ他人に怯えながら暮らすようになりました。



 お金持ちになる方法を聞いた村人は、その情報をもとに大きな町へ行って商いを始めました。

 少しずつではありますが、彼の元には少しずつお金が寄ってくるようになりました。

 何年かの後に、彼は町でも評判の大金持ちになることが出来ました。


 病気を治す薬の作り方を聞いた村人は、重たい身体を引きずりながらどうにかこうにか薬をこしらえました。

 しかし、その薬を飲んでもすぐには具合は良くなりませんでした。

 そこで、同時に病気にならない為の生き方を実践することにしました。

 少しずつではありましたが、彼の体は少しずつ健康になり、数か月の後には完全に元気な身体となりました。

 彼はそれから養生をして、死ぬまでもう病にかかることはありませんでした。


 誰からも愛される生き方を教わった村人は、実のところ元居た村に残るかどうか迷っていました。

 しかし、先に願いを叶えてもらった村人たちを見て、村を離れることを決めました。

 働きもしないで毎日自堕落に過ごし、お金があればあるだけ自分の好きなように使っていた村人。

 毎日酒を浴びる様に呑み食べたいだけ食べ、病気になってからも自分の行き方を改めようとしなかった村人。

 努力をする気もなく、自分と同じように「誰からも愛される人間」になりたいと願う村人。

 彼は、そんな人間に愛されたいとは思わなかったのです。

 彼は、自分が愛したいと思う人間を求めて旅に出ました。

 旅すがら、自分が誰からも愛される人間になれるように研鑽することを怠らなかったそうです。

 彼が旅の果てに愛したいと思える人間に願えたかどうかは、二人の神様も知らないことです。

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