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恋とすれ違いと水晶玉

盗賊の計図

作者: 酢に 蓮根

『勇者の弱点』『戦士の急所』の続きですがあちらを読んでいなくても大丈夫なはず・・・たぶん。

お色気シーンはあるのかないのか・・・ないですけどにおわせてはいます。そういうのがダメな方は読まない方が無難かと思われます。

はい、こんにちわ!


私16歳、種族人間、性別乙女、職業盗賊です!

髪とか目とか、いろいろピンクピンクしてるのでフワフワして見えるけどそこそこ優秀な盗賊のつもりです!

特技は情報集め!この外見なので色んな人がペラペラ重要な事もたやすく話してくれます。

弱っちくもおバカっぽく見えるので魔王軍の幹部も私になら何を言っても問題ないと思ってるみたいです。

人を外見で判断しちゃダメって教える人いないんですかね?

ま、そのおかげで敵の弱点とかお宝の隠し場所ガッポリ獲得★★★私を侮るなかれ!ふっふっふ。


あ、説明しますね☆この大陸の人間世界は魔王が率いる魔族軍によって侵略されたんですけれど、

ある国で勇者が発見されたので、その人が魔王軍を討伐する事になったんですぅ!

ちなみに私、勇者一行の仲間です!


メンバーはまず女勇者さん!肩につくかつかないかの長さである黄檗きはだ色の髪に明るい茶色の目の超絶美女!神様外見で勇者選んだんじゃないですか?

いえいえ、それは冗談。ちゃんと中身重視、わかってますよ。

いつも元気で明るくて頑張りやさん、ちょっと抜けたところもあるけれど人間味があって可愛いです。

長所はやっぱり勇気、かな?みんながこれはまずいかも、という時でも彼女の様々な意味での勇気・・・

例えば撤退する勇気、命を賭ける勇気、自分の力が及ばないと理解する勇気、仲間を信じる勇気・・・

そんな勇気をたくさん持っている人。

あと優しいです!安心して一緒にいる事ができます。

このパーティで女の子同士の私たちはとっても仲良し!


次に男従者さん!元農民です!私たちの仲間の中では一番の背高ノッポさんですよ。

黒くて短いツンツン髪に漆黒のきれいな目のイケメンです。

そんな従者さんは悲劇の人。奥さんが聖女として選ばれ神殿に連れて行かれただけでなく

なんと魔王軍にさらわれてしまったんです。神殿何してんのよ、人妻預かったんなら守りなさいよ、役に立ちませんね。

しかし従者さんはとても愛情深い人で自分の手で奥さんを取り戻したいと勇者一行に志願したそうです。

最初は危険だからと言って拒否した勇者さんだけど、『導きの珠』という玉が光って従者さんを仲間だと認めたそうです。

田舎の農民だったので他の土地の事も戦闘も何も知らない人ですが、純粋な分吸収力が早いのが特徴。

元々運動神経も頭も良い人なので、みんなのいい所どんどん取り入れて今では賢者です!


それから男戦士さん!元は他国の高位貴族だったらしいんですけど(もちろん第2王子様だって事は確認済♪)

国が魔王軍に滅ぼされてしまったので傭兵やっていたそうです。

ぼっさぼさの赤い髪は肩まで伸び放題、同色の髭も生やし放題、ですが隙間から覗く深紅の瞳がワイルドです。

明るくて頼もしくて前向きなこの人、実はすっごく強いんです。

いやもうハンパじゃないってこういう事を言うんだなって思うの。

盾は一応持っているけれど、それは私たち仲間をかばう時だけに使うのであって、彼本人は必要ないっぽいです。

あの大剣の一振りでたいていの魔物、及び魔族は真っ二つにぶったぎられます。

だいたいあの重量の武器を簡単に軽々と振り回せる上、目にも止まらぬ速さで捌くとか何者ですか貴方。

勇者さんが『戦士殿の方が絶対に無敵だわ』と呟いた事があるけれど9割私もそう思った事があります。

あと旅慣れているのでお金の管理から野営の設置、お店との値段交渉までなんでもござれ!

完璧すぎるので勇者さんを時々いやらしい目で眺めているのは見て見ぬふりです。

うん、人に欠点のひとつやふたつ、あってもしかたないと思うの!


はいはい、まだまだいきますよー。魔法使いのおじいちゃんも一緒に旅してます!

髪の毛は・・・生えてないので何色なのかわかりません!本人は気にして大き目の帽子をかぶっているのでそうっとしておきましょう。

いつものんびりと私たちを見守ってくれている穏やかなおじいちゃんだけど、

戦闘では最後尾でいつも魔法攻撃を繰り広げ、敵に大ダメージを与えてくれます。

バックアタックにも対抗しているあたり、戦闘慣れしてるっぽさを感じるんだよねー。

最近では歩くのが辛いらしくていつも頭一つ分くらい宙に浮いて私たちの後についてきてます。

うーん、魔力消費は心配じゃないのかな?今度聞いてみよっと!


そして最後、私の愛しい男神官さん。・・・きゃぁぁー、愛しい、なんて言っちゃった!

うふふふ☆青い目に青い髪が冷たい印象だし、言葉遣いも神官の割にぶっきらぼうで最初はちょっと怖いなーって思ったの。

神官系の魔法はほとんど習得していて、魔王軍の中でも一番戦いたくない軍団トップ3、アンデット軍団も

神官さんの活躍で無事撃退する事ができましたが、いやもう、その時の無表情っぷりの恐ろしい事。

あと魔王軍を倒す事と自分の事だけを考えてるんじゃないかなぁって言動もあったしね。

でもね、本当は凄くまじめで優しくて、世話焼きさんの苦労性。

みんなが傷つくのを本当は凄く怖がっていて、だから必死で強がっちゃう。

一度私死にかけたっぽいんだけど(自分は気を失っていたからおぼえてないの、残念☆)

半泣きになりながら『ここで死ぬな、戻って来い!』ってずっと呼びかけながら蘇生魔法をかけてくれてたんだって。

まぁそういう事もあって私、いつのまにか神官さんに恋しちゃいました☆


ただいまモーレツアタック中。


なかなかうまくいかないけど。


とりあえず(うーん、とりあえずでいいのかな?)私たちはつい先日、聖女を救い出し、魔王を倒して凱旋しました。


魔王退治とか、ホント戦士さん片手間だと思ってません?っていうぐらいだった。

魔王を倒せる唯一の武器と言われる勇者の剣のさっくり感もハンパなかったし。


え、あっさり?

いえいえ、ここまでホント、大変だったんですよ?

恋愛バトルとか恋愛バトルとか恋愛バトルとか。


・・・うん、恋愛バトルのほうが大変?


だって勇者さん、戦士さんの気持ちに気が付かず、賢者さんに惚れ込んじゃうんだもん。

そっちの方に気を取られちゃうよねー。

私としてももちろん既婚者にのめりこんでいく勇者さんの恋なんて見ていられなかったけど、勇者さん、ずっと耐えてたしね。

うーん、本人は耐えているつもりなかったかな?憧れていただけ気分?

この情報通の私が様々な状況を分析した結果、勇者さんは恋に恋してたっぽい。

そんな偽恋に命賭けるとかホント、危なっかしい人です。

純粋な分、救えなくて周りまで辛くなっちゃいます。


なのでちょぉっと危険なまなざしの戦士さんをがぜん応援!

だって戦士さんは本当に勇者さんを大切にしてるんだもん!

何がいいって、勇者さんの尊厳と心をちゃんと守ってる所が凄いんだよね。


例えば戦闘。

戦士さん一人でも全然余裕で倒せちゃう敵も勇者さんの経験値の為、あえて手を抜いたりします。

うーん、遊びじゃないから一応全力を出してほしいけど、でも勇者さんにも強くなってもらわなくちゃ困るんですよね。

なにせ魔王にトドメをさせるのは勇者の剣に認められた勇者だけですから。

でもその所為で戦士さんがケガする事もたくさんあった。

それなのに、戦士さんはいつも明るく勇者さんにケガを治してもらっていた。治癒魔法の練習台にしてください、なんて言って。


勇者さんの気持ちも・・・知っていて見守っていた。

自分の気持ちを押し殺していた。


今思えば劇的なチャンスを狙っていたんでしょうけどね。


いやいやいや、それよりも私の恋ですよ!


魔王を倒し、聖女を連れて帰ってきた事を祝う宴で私、なんとドレスを着ちゃいました!

自分の髪と目の色よりちょっと濃い目のピンクのドレスはちょっと大人っぽく、小粒の宝石がついたネックレスやその他で飾り立て。

靴はヒールをちょっと低めにしてもらった。

だって神官さん、男性の割に身長がちょっと低め・・・本人気にしてるから言えないけど・・・なので、

彼の身長を追い越さない程度のヒールに調整したんです、うん、完璧★


勇者さんより早く準備ができた私は一足先に控室に。

そこにはすでに男性陣と聖女さんがいらっしゃいました。


はぁ、聖女さん・・・やっぱり美しいというか妖艶というか・・・清らかさから少々程遠いのはなぜでしょう?

深緑色の落ち着いた感じのドレスは露出も少なく体の線もそんなにあらわになっていないデザインなのに、

賢者さんと並んで立っているだけで何か始まっちゃいそうで怖いんですけど。


魔法使いのおじいちゃんもお気に入りだと言うおとっときのローブを羽織っている。似合ってますよ。


そして戦士さんは伸び放題だったひげをきれいに剃られ、髪も短く整えられてました。

赤い礼服もとてもお似合いです。


「・・・戦士殿、男前だったんですね。」


いやー、人間変わるもんです。野生の獣感ハンパない日常と比べてこういう格好してると王子様って感じしますねぇ。


「盗賊嬢もかわいいですよ、そのピンクのドレス似合ってます。ね、神官殿?」


おぉ、ありがとうございます!というか、そう、そうよ、神官さん、私、どうですか?!


「悪くないんじゃないか?」


おぉぉぉぉ・・・。


これは・・・これは好感触・・・。


ずっと一緒に旅をしてきたから神官さんが素直じゃないのはわかってる。

ちゃんと褒めてくれる人じゃないからひねくれた嫌味を一言を投げられるかと思いきや、予想以上の言葉です!


そんな神官さんは白を基調とし、ところどころ青いラインが入った神官用の式服です。

あぁぁもう、カッコイイよぉ!


「アスールさん、すっごくかっこいいです!アスールさんが神官で良かったです!似合ってます!最高です!」


力いっぱい褒めたら顔を赤くして『ふんっ!』とそっぽを向いてしまった。

ふふふ、そーいう所も大好きですよ。


そんなこんなをしていたら勇者アマリージョさんも控室に到着。


空気を読めない賢者ネグロさんがその姿を褒めるもんだからちょっと微妙な雰囲気になったけど、さすが聖女ベルデさん。

うまくネグロさんをアマリージョさんから引き離してます。これはもう、ネグロさんの舵取りはお任せで問題ないですね!


そして宴は私たちの入場時間。


まずはなぜかこの国のお姫様が私たちの仲間で戦士でもある失われた国の第2王子ロッホさんにエスコートされて会場に入り、歓声に応えている。

・・・まぁね、知ってますけどね。

この国の狸親父・・・もとい国王がロッホさんと自分の娘をくっつけようとしている事ぐらい。

お姫様も最初は髪髭ボーボーワイルド系の戦士なんて嫌って顔してたくせに、

ロッホさんが男前で強くて博識な王子様だってわかった途端乗り気になったあたりおもしろくないんですよー。

もちろん全力で阻止する気満々の私たちなんですけれど、アマリージョさんがイマイチ反応薄い。

さっさとロッホさんはアマリージョさんを射止めるべきだと思う。


次はなんと、アスールさんにエスコートされる私!!


「ふん、仕方ないだろう。この状況でこれ以外あるというのか?」


ま、そうなんですけどね。でも嬉しい!!

それになんだかんだ言って、アスールさんもまんざらでもない感じが!!

ぷいって私がいない方を見ているけれど、握ってくれる手は恐る恐るよりかは少し強く、優しい。


あぁぁぁぁもう、嬉しすぎる!


歓声よりも何よりも、今こうしてふたりで手を繋いで歩いている事!

それが本当に嬉しいの!


さてその次はネグロさんとベルデさん。

あぁぁ、会場の全員が思わず唾を飲みこみましたよ。

ネグロさんってベルデさんと並んだら本当に色気が溢れまくって、会場の女の人が一気に気絶しそうになってますよ。

男の人達もベルデさんの醸し出す雰囲気に飲まれて手足の指の数足した以上の人が前かがみになってます。もうヤメテ。

なんでこのふたり賢者と聖女なの、誰か教えて。


最後はもちろん、主役である勇者アマリージョさんとエスコート役で魔法使いのカリーさん。

孫娘が可愛いおじいちゃんとおじいちゃん大好きな孫娘って感じです。


以上!


ちょっと国王と王女の意地悪が透けて見えたから気分悪いんですけどね!


でもアマリージョさんとカリーさんはとっても仲良しだし、全然気にしてないっぽい。

まぁカリーさんいわく、


「この老いぼれが勇者と一緒に歩くといえば国王も文句を言わないでしょう。

まぁある程度はあの狸の顔も立ててやらねばなりますまい。

ロッホさんの国をこれから立て直すにも、大人の配慮が必要なのです。

それよりも適当な貴族の子息をアマリージョさんにあてがわれる方が後々恐ろしい事になると思うのですがね。

この老いぼれなら『あの人』も許容範囲らしいですからなぁ。」


と言っていた。


うん、『あの人』の恨みは絶対に恐ろしいもんね。

この国滅びちゃうよね、きっと。

私、『あの人』が魔王軍から『魔王以上の魔王』って呼ばれていたの、知ってます。

全力で勇者アマリージョさんの耳に入らないよう、情報操作しましたが。

ね、ロッホさん。うーん、『あの人』って呼んだ方がいいのかな?


とにかく宴は始まり狸親父を筆頭にいろんな人の長い挨拶のあと、やっと歓談とダンスになった。

私はアスールさんを道連れにしながら普段じゃ食べられない王宮スイーツを心行くまで楽しみまくり!

アスールさん甘党のくせにカッコつけて食べずにやせ我慢してるから、私につきあって渋々食べてる感が必要なんですよ。

子どもっぽく見られたくないらしいです。

背が少々低い事もあって(そんなに気にする事ないと思うんですよー。ネグロさんとロッホさんが背高すぎるんです)、

なんかもう、大人の男でいたいんですよね。

そういう所も私、好きなんです!うふふ☆


そのうちネグロさんとベルデさんのダンスが始まりました。


あのー、ただ躍っているだけなのに、それなのに!

あのダダ漏れの色気はなんですか?

見てる人みんな、心の中も含めて色んな人の色んな所が盛り上がってますよ?

あぁ、あの招待客さん、雷属性なのかなんなのかわかんないけど火花散らしてショートしちゃってる。

色気に免疫なさすぎてあーなっちゃうんですね。

あの空気にふれちゃったら最後、みんな今夜は人恋しくなっちゃいますよ。


まー私たちパーティはなんとなく耐性できちゃってるから大丈夫なんですけど。


・・・あ、一名別の意味で耐性0どころかマイナスの人いましたよ。


アマリージョさんはこそっと会場を出て行く。

私は追いかけようとしたけれど、アスールさんに止められた。

私の目の端にはそうっと会場を抜け出すロッホさんの姿。

うん、私の出番ナシ!


という事で。


「アスールさん、今夜はいっぱい食べましょうね!」


「太るぞ。」


「えーーー?!」


という感じでアスールさんと一緒にいる事にしました!


宴には神殿の偉い人、要するにアスールさんの上司さんも結構な数来てたんですけどあまり寄ってきませんね。


「ベルデが魔王にさらわれた時どうする事もできなかった不信心の塊だ。放っておけ。」


ほうほう、神殿もすさんでいたりするんですか?

そっち方面の情報はあまり集めていなかったので興味深いですね。


「お前はあんな汚い世界を知る必要はない。」


いやー、盗賊はどんな世界も顔ツッコんじゃう職業ですから気を使われる必要ないんですけど。


うん、私、アスールさんのこういうところ、好きだけど嫌い。

年下だからって私をお子様扱いしている上、きれいな物だけ見せようとしてる。

私には世界の幸せの良い部分だけ知っていてほしいって願うのはおかしいと思う。

それって私の盗賊としての情報収集を阻害するだけじゃないですか。

まぁね、盗賊って職業な時点で神官に恋するとか間違ってるんじゃないかと思いますよ。

でも好きになっちゃったら仕方ないんですよ。

もしも盗賊じゃなければアスールさんは私の事好きになってくれたのかな?って勘違いしたくなる事もある。

それはさておいて私は盗賊って職業好きだし、プライド持ってるし、私にしかできない事があるし、辞める気なんてぜーんぜんないし。


それに、今のアスールさんには私が必要でしょ?


そうです、私たちがスイーツを漁っている間中、まとわりついている人たちがいっぱいいるんですよ。


下位貴族の皆さんです。


実はアスールさん、お金持ちの商人の跡取り息子だったりしたんです。

でもお金お金お金とお金中心の実家に反発して神官になったのだとか。

ちなみにご実家はいまだご両親ご健在で商売ますます繁盛だそうです。

で、アスールさん自身は商売を継ぐ気は全くないんですけれど、それなら孫世代に・・・ってご両親は考えているそうで、

要するにお金と親戚になりたい人達が爵位片手に『ぜひうちと縁談を!』って迫ってくるわけですよ。

中にはアスールさんのご実家に借金がいーっぱいある人もいて、なんとかとりなしてもらおうと皆さん必死です。


もちろん私なんて無視してね。


なんだけど。


「うるさい。」


・・・いやー、自分より身分の高い人たちにそんな風に言っちゃいます普通?周り凍りついてますから。

あ、3分の1ぐらいの人は反対に怒りで燃え上がっちゃってますけど。

いや、言っちゃいますよね、アスールさんなら。

一応俗世を離れた神官と言う存在で、神に使える身には俗世の身分は関係ないっていう建前ありますもの。

実際には建前でしかないはずなんですけど、アスールさん本音に変化させてるところが凄いと思いますよ。


「俺は神に仕える身。今回は魔王を倒す為神に選ばれただけの事。俗世に興味はない。」


はいはい、わかってますわかってます。

もう、仕方ないなぁ。


「はいはい皆さん、落ち着いてくださいね。」


ニコニコしながら私はアスールさんの前に出て盾になる。

そしてその場にいるひとりひとりに、他の誰にも聞こえないように、それぞれにぴぃったりのお話を囁かせていただきました。

ふっふっふ。

情報収集が専門分野の盗賊を甘く見てもらうと困ります。

その証拠に皆さん、慌てて私たちから離れていきました。

やーねーもう、みんな弱みや後ろ暗い事ありすぎ★★★


「お前のそういう所が・・・いや、なんでもない。」


ほっとしような、苦いような、複雑な表情のアスールさん。

でも。


「助かった。」


つまりそれって『ありがとう』って言葉。

うふふ、嬉しい!


「ね、アスールさん、アスールさんには私が必要でしょ?」


どさくさに紛れてアスールさんの腕に私の腕を絡める。


「虫よけ程度にはなるな。」


あーもう、そう言う意地悪な言い方するんだから。


でも、ただの虫よけの腕を拒否せず絡めたまま笑ってるっていう事はちょっとは期待していいよね?


私、頑張ります!



なーんて夜がありました、はい。


その後私たちはロッホさんの故郷で暴れまわる魔族や魔物の残党をなんとかする為訪れています。

あ、ネグロさんとベルデさんは残してきました。

あの二人にはあの二人にしかできない事がたくさんあるんですよ。


というわけで残った5人で旅を続けているのですが、ロッホさんのアマリージョさんへのアピールが凄いです。

溢れんばかりの愛の全てをぶつけちゃってる気がします。

隙あらばふたりきりになって熱烈アピールです。

知らないふりをしてあげてる私って大人だわ。私以上に知らん顔のカリーさんはリアル大人だわ。

うん、真面目なアスールさんには少々刺激が強いと思うので知られないよう、私フォローしてます。

なのでそのお礼としてロッホさんから時々甘いお菓子をもらってます。ありがとうロッホさん!


そんなこんなですが、ある日結構いい感じのお宿に泊まる事になりました。

部屋数や収容人数の関係で男部屋と女部屋に分かれます。

壁が厚くて話し声も外に聞こえない感じのしっかりした感じなんですが、その夜。


潤んだ目の勇者さんがおずおずと口を開く。


「あ、あのねプリマベラ嬢、教えてほしい事があるんだけど・・・。」


はいはいなんですか、この情報の宝物庫、盗賊娘になんでもきいてください!


「・・・とか、・・・・って普通なの?」


・・・いいえ、それってそういうのを許すってそれ専門の娼婦のおねーさま方ぐらいしかいませんね。

とは言えない。

恐ろしくて言えない。

言った事がバレたら最後、私はきっとロッホさんに殺されます。


「あーまー、その、二人で納得していればそれでいいんじゃないですかぁ?」


冷や汗を背中に流しながら無難な答えを出しときます。

これで恨まれないはず!

ごめんなさいアマリージョさん、私は貴女に真実を伝える事ができません!

命が惜しいんです!

アスールさんとラブラブになるまでは死にたくないんです!


以前の私が『勇者さんの尊厳と心をちゃんと守ってる所が凄い』とか語りましたけど、今すぐ訂正させてもらいます。


現在そんな事全部すっとばしてますよあのスケベ戦士。

怖いわー。


、と心の中で呟く。

えぇ、声に出しませんよ。

死にたくないですから。


「恋人同士ならいいんですよ、きっと!」


とりあえず強く言ってみたらアマリージョさん俯いちゃいました。なんで?


「こ、恋人じゃないなら、おかしいよね?」


・・・えぇっと、更に前言撤回していいですか?


私がロッホさんズタボロにしても誰も文句言いませんよね?

むしろそうしろってみんな応援してくれますよね?

殺気が急に溢れちゃって困るんですけど。


・・・ん?ちょっと待って?


「告白は、されたんですよね?『好き』って・・・。」


「あ、うん・・・。あの、お祝の宴の時に・・・。」


「えぇっと、答えを出してないのはアマリージョさんの方だったりします?」


「うーん・・・。出してるつもりなんだけど、どうなんだろう・・・?」


ホントに困った表情で首を傾げるアマリージョさんは恐ろしいほど愛らしい。


だめだ・・・この人ちゃんとしつけないともれなく男にだらしなくなっちゃう人だ。

美人で素直で明るくてその上・・・とか、ホントまずいパターンだ。

実際人の旦那にぽぉっとなっちゃうし。

今までマトモな出会いがなかったのかな?

小さな街で時計屋さんをやっているおじいさんと二人暮らしだったって聞いてるけど、今度アマリージョさんの経歴を調べなおしてみよう。

とそれはさておいて、今はまだある貞操観念もこのままだと壊れてしまう気がする。

というか清らかな乙女に何仕込んでんのあのスケベ戦士!!

その前にちゃんと恋人ぐらいなっておくべきでしょう!!


「だだだ、だけど、その、最後まではしてないの!本当よ!信じて!」


えぇ、そこはわかってますよ。

だって昨日『清らかな乙女のみが入る事ができる祠』に二人で入って魔物を封印できる道具取ってきたじゃないですか。

アマリージョさんが足を踏み入れた瞬間『危なかったぁ・・・』って言うロッホさんの声が後ろで聞こえましたけど。

うん、常日頃どんな情報も逃さない為に聞き耳を立てる癖がついている私だから聞こえたのであって、他の人には聞こえてませんよ。


なのでそれ、結婚するまで大事に取っておくんですよ、アマリージョさん?


「う、うん、わかった・・・。」


よしよし、そういう事で。

その前に。


「ちゃんとロッホさんに返事しなくちゃダメですよ。」


大事な事なので念押しすればさらに困ったような顔に。

あぁもう、この人もう自分がロッホさんにオチてる自覚ないんですね!


仕方ない、ロッホさんに軽く探りを入れるか。


というわけで、ロッホさんとふたりで先行して歩いてます。

アマリージョさんとアスールさんは今日ちょっと調子が悪いカリーさんに合わせて移動です。

・・・本当に調子が悪いんですか、カリーさん?

もしかして私の作戦に気が付いていて手伝ってくれてます?


・・・いや、それは横に置いておこう。

とにかくロッホさんですよ。

歩きつつもぼそっと突いてみました、心を。

するとロッホさんはうーん、と唸りました。

苦笑いを浮かべています。


「うーん、先走っちゃいすぎたかなって思ってはいるんですよ。

俺としては充分長い時間待ったし我慢もしたんですけど、アマリージョからしたら突然だったでしょうしね。

いきなりそういう目で見ろっていうのもできないだろうから返事はまだでも仕方ないですよね。」


そうですか、やっぱりちゃんとアマリージョさんの気持ちが追いつくの待ってるんですね。


「だけどね、一度アマリージョとそうなったらもう我慢できなくて・・・これでもギリギリなんですよ?」


それはわかります。まだアマリージョさんが清らかな乙女の時点でよく頑張ってるなって思います。

でもだからって隙間時間を利用してあんな事やそんな事、アスールさんにバレたらパーティ崩壊なので勘弁してください。

きっとあの人神殿の奥に引きこもって出てこなくなりますよ?


「そうなってもプリマベラ嬢はアスールさんを追いかけますよね?

神殿の奥でふたりきりの生活も悪くないんじゃないですか?」


アスールさんと二人きりの生活・・・。

確かに悪くない・・・☆彡


いやいや、それは後回し!

それよりもこれからどうするんですか?


「賭けに出ようかなって思ってます。」


賭け?


「一度俺とアマリージョは離れた方がいい。

その上でお互いが本当に必要か、考える時間を持ちたいと思います。

ま、俺はもう結論出てるんですけどね。

これ以上俺の気持ちだけでコトを運びたくないんですよ。

アマリージョの気持ちが追いついてきたのが50年後とか死んだ後とか、そういう残念な展開にはしたくないんで。」


なるほど、ありえそうで怖いです。


「アマリージョがちゃんと俺を選んでくれるかどうか。

こればっかりは俺が決める事じゃないんで、せいぜい選んでもらえるよう、頑張るしかないですね。」


おぉぉぉ、とても男前な発言です!

尊敬します!

たとえみんなから勇者と呼ばれ讃えられている彼女に舌を這わせていても、彼女の甘い悲鳴にどす黒い笑顔を浮かべても!!


「やだなープリマベラ嬢、そんな褒めなくても。」


あ、そうだ、ロッホさん、でもちゃんと気を付けてくださいね。

アマリージョさん、ちょっと異性に関して甘い部分があるかもしれない。


「はは、結婚したら即お城に軟禁ですよぉ。え?大丈夫大丈夫、軟禁してるってアマリージョ本人にはバレないようにしますって。

うーん、少なくとも1年ぐらいはそんな感じで。様子を見て子ども作ってー、子ども作ってー、子ども作ってー。

毎日俺がちゃんとかまい倒しますから、退屈する暇なんてないと思います。」


んーと、と、とりあえずいいのかな?

一人の人と永遠の愛を誓って一生その人ひとりならいいのかな?

ロッホさんの事だからきっとそれはそれはもの凄いしつけをしちゃうんだろうな、あはは・・・。


「アマリージョはね、俺なしでもう生きられなくなっちゃってますから。ご心配なく★★★」


えぇっと、さっきの『俺を選んでくれるかどうか』発言ってもしかして意味ないですか?

もうアマリージョさんに選ばれる事確定なんですか?


・・・別の意味で心配だけど幸せならいいかな?!

いいよね!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・



「いいわけないでしょ!!」


聖女ベルデは水晶玉に向かって突っ込んだ。

あーそこ、プリマベラ嬢の心の中まで覗くんですかベルデ。

覗きパワーが増大してませんか?

聖女の力をそこに使っていいんですか?

もう少し世界の平和に役立てましょうよ。


水晶玉に心という者が存在しているならきっとそう考えているに違いない。


そんなこんなだが。


「で、神様、そろそろ神の世界に帰らなくてはいけないのではないのですか?

分身の術を使い続けるのもめんどくさいでしょうに。」


ベルデは振り返る。


そこには自分の禿げ頭をなでなでしながら首を傾げるカリーの姿が。


「髪の世界?髪の世界があるなら行きたいのぉ。」


「・・・あればいいですね、髪の世界。」


これでいいのかこの世界。

うん・・・とんでもない息抜きになってしまった。

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