第98話:サザーランド王都19
オーカスが言う。
「それは氷の魔法。血流を凍らせる事ができるから即死魔法の成功率が高いのですね」
ニックはオーカスに意味有りげに微笑んでから、ラグの足元に荷物を投げた。
「部屋にあった荷物を全部持ってきた。地竜に載せて、一刻も早くここから逃げるんだ」
「礼は言わんぞ」
ラグは荷物を持ち上げ、手早く地竜に載せて飛び乗る。
オーカスも急いで支度をして地竜に乗る。
そのオーカスの後ろにニックが跨った。
「げ! 貴様!!」
ラグが怒って言うよりも早く、ニックはオーカスが握っている手綱を握って地竜を走らせた。
ラグは地竜の尻を叩いてオーカスとニックが乗る地竜を追いかける。
「おい。こら! 待て!!」
恐ろしい形相で追いかけてくるラグに、ニックは愛を込めた投げキッスをしてからオーカスに言った。
「悪いけど、俺も逃げないと命が危ないんだよね」
オーカスは地竜に揺さ振られながら言う。
「あなたを巻き込んでしまってすいません」
「いいって。巻き込まれたっていうより、俺が飛び込んだって言ったほうが正解だから」
「え?」
ニックはオーカスの前に左腕を出す。褐色の肌の上に何も無いが、ニックが呪文を呟くと腕にサファイア色のブレスレットが現れた。針金状の青い金属がミサンガのように編んである。
「あ! 水の鍵。あなたが鍵の継承者の?」
オーカスが首を動かして背にいるニックを見ると、ニックはエメラルド色の瞳でウインクをして挨拶をした。
「そう。俺が水の鍵の継承者。ニコラス・グラン・ケルティック。今までどおり、ニックと呼んでくれ」
間近で見るニックの顔は、髪と肌の色が違う以外はケルティック将軍に似て甘いマスク。ニックが好きなのがラグだと分かっていても、間近でニックを見ているオーカスの頬は赤くなった。
その後ろで、まだ何も知らないラグは、
「どこへ行く? こぉらぁぁ!!」
血走った怒りの眼を剥き出しにして、オーカスとニックが乗る地竜をひたすら追いかけていた。