第93話:サザーランド王都14
二人は暫く歩き普段より高級な飲食店を選んで一緒に夕食を食べた。高級な飲食店を選んだのは辛い事を忘れるためと、ラグの好きな美味しい酒があればというオーカスの配慮のためだった。
しかしラグは思い出してしまった過去の悲惨な光景を酒で紛らわせるような事はしなかった。
オーカスも水の鍵を手に入れられない現実に敗北感に似た思いを抱いていたが、もうラグの前で取り乱して泣く事はなかった。
最初は言葉が少なかったが、触れ合うほど互いの距離が近くなっていた二人は、食事が進むにつれ会話が多くなり、店を出る頃には宿で抱き合った事も忘れて二人は雑談に夢中になっていた。
帰り道は二人にとってとても楽しい時間だった。
何気ない話にラグは笑って答え、オーカスはラグの気さくな一面を知り、全てを失う前のラグ本来の姿を見たような気がして、ラグのために今の時間が少しでも長く続くようにと、オーカスは心の中でユーフォリアの神々に祈った。
しかし、どうしても鍵の宿命は棘のある鉄線となってラグの体に巻きついてくる。
笑顔で話す二人の帰り道に、謎の集団が待っていたのだ。
服装がバラバラなのを見ると金で雇われた傭兵の集まりのようだ。覆面の無いその顔は、全員がオーカスとラグに注目をしていた。
オーカスとラグは、無関心を装い通り過ぎようとするが、集団は二人の前に立ち憚った。
「the keysか?」
「なんだ? 訳が分からん」
ラグはオーカスの肩を抱いて押して歩く。
集団はラグとオーカスを取り囲んだ。
オーカスは静かに手を動かして魔法器に触れる。
集団は一斉に剣を抜いた。全員の剣に魔法器がついている。
ラグは一瞬にしてオーカスの横から消え去った。同時に集団の何人かが、魔法を発動させることなく、ラグに斬られて倒れた。ラグの動きはとても早い。