第92話:サザーランド王都13
ラグは、腕の中にいるオーカスの頬に伝う涙にそっと触れて拭っていく。
オーカスは顔を上げた。ラグに心を預け慰めを求めて甘え、涙を拭うラグの手に自分の手を添えて瞳を閉じた。
弱冠17歳のオーカスの肌はきめが細かくてバニラ色をしている。頬に触れた時の感触はマシュマロのようにふわりとして軟らかい。ラグの親指の横にあるオーカスの唇は吐息のような嗚咽を漏らし、奥にある舌がゆっくりと動いてラグを誘っているように見える。
ラグは優しい言葉をかけながら、オーカスの唇に引き寄せられている自分に気付いた。こいつは少年。男だぞ。
と。
「そろそろ夕食を食べに行くぞ。俺は、腹が減って仕方が無い」
ラグはオーカスから離れた。手にはまだオーカスの軟らかい頬の感触が残っている。
軍にいた頃、泣いた仲間を励ました事は何度もあった。抱き合って男泣きをした事もある。しかし、頬にある涙を指で拭うのは女にしかした事が無い。男の涙を拭ったのはオーカスが初めてで、自らの意思で引き寄せて抱き締めてもいる。女ならいざ知らず、なぜ男のオーカスを抱き締めて頬に触れ、そして――。
ラグは部屋から出たところで壁に手をついた。壁は硬くて冷やりとしている。熱が増す手を冷やしながら亡き妻に助けを求めた。
「オフェーリア」
思い出の中にいるオフェーリアは笑顔だが、背景が燃え盛るコトック邸に変わるとオフェーリアの顔は焼けただれて醜い姿に変貌する。
「私は、どこまで堕ちて行くのだ?」
元来の貴族口調で呟きながらラグが壁に手をついてもたれていると、オーカスが心配そうな表情をしてラグの体を支えた。
「大丈夫ですか? すいません。現役の隊長であり、鍵の継承者の護衛をしなければならない私が不甲斐ないばかりに、ご家族を失って間も無いラグの心情を考えもしないで負担をかけるような事をしてしまって」
「いや。違う。お前のせいじゃない」
またオーカスを抱き締めそうになって、ラグは踏み止まった。心の中でオフェーリアの名前をなんども繰り返す。オフェーリアが亡くなったのは数ヶ月前。目の前の少年を抱き締めてしまうのは最愛の妻を亡くしたショックが原因だと答えを出してから、ラグは壁を突き放し勢いをつけて歩き出した。
「とにかく食事だ。行くぞ」
「はい。そうですね。何かおいしいものを、お腹いっぱいに食べましょう」
オーカスは落ち着きを取り戻したようで、早めに歩くラグに歩調を合わせて宿屋を出た。




