第91話:サザーランド王都12
「我が国にある鍵は二つ。土の鍵を手に入れ、水の鍵は目前だというのに、それが王宮の中だなんて、いくら私でも王宮の中には潜入できません」
オーカスはラグの腕を掴んで言う。
「このままでは任務を果たす事ができない。私はこれからどうすればよいのでしょう」
「敵国の土の鍵が一つ手に入っただけでも大手柄じゃないのか?」
オーカスはラグの左手を持ち上げて小指にある土の指輪に触れる。
「でも、土の鍵はラグの左小指にあります。土の鍵は魔法が使えないラグを選びました。ローラン城内の魔法競技にも負けた事がない私より、魔法が使えないラグを選ぶなんて。こんな悔しい思いをしたのは生まれて初めてです。そもそも、ラグは何も言わず私について来ました。どうしてですか? 」
オーカスはラグの腕を掴んで泣き出す。静かに泣きながら言葉を続ける。
「コトック邸を失い、火の鍵を持つラグなら、ローラン国王の下へ行けばそれなりの待遇を得られるではありませんか。それなのに、貴族の身分を捨てただの剣士に成り下がり、命に関わる私の任務に付き合って敵国に潜入するなんて」
「俺はな……」
言いかけて、オーカスの涙を見るのが辛くなったラグは、オーカスを自分の胸に寄せてそっと抱き締めた。
「俺の家族を殺した奴らの服にはサザーランド国の紋章があった。俺は家族の仇を討つために、お前についてここまで来たんだ」
ラグの告白に、オーカスは顔を上げた。
ラグもオーカスを見る。オーカスの青い瞳から流れる涙を親指でそっと拭いながらラグは優しい口調で話し続けた。
「でもな、軍人の時に平気でローラン城に出入りをしていた俺も、敵国の王宮を見ると怖じ気づいてしまってどうする事もできん。悔しさだけが込み上げてくる。任務を全うしなければならない隊長のお前なら、なお更悔しいだろう」
オーカスは、ラグの胸にすがって自分の情けなさに涙を流した。




