第90話:サザーランド王都11
部屋に入ってからのラグとオーカスは言葉を交わさず時間ばかりが過ぎた。
ラグはシャワーを浴びて1日の汗を流し終わり、シャワールームから出てきてからは、上半身は何もまとわずにズボンだけはいて、ベッドに腰掛けて濡れた灰色の頭髪をタオルで拭いている。
オーカスは、ラグがシャワーを浴びている間に魔法通信を行ってローラン国と連絡をとっていたようで、窓際に立って外の景色を眺めていた。
「おい」
「あの」
日が沈み、ラグとオーカスは同時に呼び合う。そして同時に言う。
「何か?」
「先に言え」
こうなると、元々口数が少ないラグが先に言う事はない。
オーカスは少し間をおいてから口を開いた。
「水の鍵の継承者は、魔法攻撃が得意なケルティック将軍だと思っていました。当てが外れて残念です」
ラグは頭を拭いていたタオルを肩にかけてから言う。
「その将軍に兄弟や姉妹がいるってガイドが言っていただろ」
「ええ。でも敵国の要人という事もあり、我が国の資料には鍵の継承者の名が記されてなくて――」
「それなら、俺やリー家のように、継承者が親という可能性もあるな」
「家族の誰が鍵の継承者でも、王宮に住んでいたら会うなんて無理です」
オーカスは、窓にもたれて日暮れ時の外の景色を眺めながら会話を続ける。外から監視されているとも気付かずに。
「ラグは何を言おうとしたのですか?」
「日が暮れたし腹が減ったから、お前と飯でも食おうと思ってな」
ラグは適当に頭髪を掻き分けてから上着を着る。
「では何か食べに行きましょう」
オーカスは歩き出した。
ラグも一緒に歩いてオーカスの背中を軽く叩いた。
「元気を出せ。チャンスはそのうちやってくる。リクナの酒場で飲んでいた俺のように」
オーカスは横に並んで一緒に歩くラグを見上げた。
「いつも茶化してばかりなのに、今は優しくして下さるのですね」
「まあ。鍵の事だからな。他人事とは思えん」
ラグもオーカスを見下ろした。
二人は部屋のドアの前で立ち止まった。