第86話:サザーランド王都7
ラグとオーカスは宿屋の主人に出掛ける旨を伝えると外に出た。
王都で暮らしている上流階級の人々が高価な服を着て地竜や魔法器に乗って移動している。乗り物として移動している魔法器も煌びやかに装飾が施されていて高価そうだ。
オーカスは王都らしい雰囲気を感じながら地竜の手綱を握る。
そこにニックが現れた。
「どちらに行かれるんです? よかったら案内しますよ?」
ニックはオーカスの地竜に寄り添って歩き、営業スマイルをする。
呆気にとられるオーカス。
ラグは手早く地竜を操ってニックとオーカスの間に割り込んだ。用心棒のようにアメシストの瞳を鋭く光らせてニックを見下ろした。
「俺たちをつけて来たのか?」
ニックは愛想笑いをする。
「つけて来たって? イヤだなぁ。そんな言い方をしないで下さいよ。こっちはガイドの仕事中なんですから」
「ガイド?」
先ほどオーカスをニックから引き離したラグは、オーカスとニックの会話内容を知らない。
オーカスはラグに説明をする。
「ほらさっき、ガイドを雇わないかって言われたのです」
「そうだったのか」
ニックは、ラグを相手に自分の売り込みを始めた。
「俺はサザーランド国公認のガイド証を持っておりますので、王宮の庭園を案内する事もできるんですよ。どうです? 俺を雇いませんか?」
「王宮に入れるなら……」
ラグは言い掛けて急いで言い直す。
「いや。いい。俺たちは、ただの観光だから王都の歴史ある建物が見物できればそれで充分だ」
ラグは断るつもりで言うが、ニックは言葉巧みにラグを口説く。
「なら、ケルティック邸を見に行かれてはいかがですか? 一番古い建物で、ここケルティック地方の名前の由来にもなっているんですよ」
それにオーカスが食いついた。
「ケルティック邸内に入れるのですか?」
「もちろん。王都の観光名所の一つになっておりますので、ガイド証を持っている俺と行けば入れます」
オーカスはラグを見る。オーカスの表情はすぐにでもケルティック邸へ行きたいと言っている。