第85話:サザーランド王都6
ラグは笑った。腹を抱えて笑い、笑い疲れたとばかりにベッドに腰掛けて言う。
「か細い腕で酌をするあの女たちが刺客だって? ありえん」
「魔法器が使えないラグはご存知ないかもしれませんが、魔力は女性のほうが強いのです。魔法器を持つ腕の太さも関係ありません。賢者リーを思い出して下さい。魔法生物を何体も作って操りながら、植物も生成し操り、更に巨大な石をいくつも作って操る。店で働く女性だと思って侮っていると、そのうち寝首をかかれますよ」
ラグは小言に鬱陶しさを感じ、早く終わらせたくて、仕返しついでに嫌味を込めて返事をした。
「分かりました。オーカス隊長殿のお言葉は、謹んで承らせて頂きます」
酔っ払いの言葉だと分かっていても、ラグの言い方が癪に障る。オーカスは腹立ちを収められずまた苛立つ。
「とりあえず、私は何か食べるものを買って来ます。ついでなので、ここで飲めるようにお酒も買ってきましょう」
オーカスは、暫くの間ラグの顔を見たくなかった。ラグと一緒にいれば自分ばかりがラグの心配をして損だと思ったからだ。
オーカスが買い物のために部屋を出てドアを閉めようとすると、ラグが閉まりかけたドアを押さえた。
「俺も行く」
ラグはオーカスが気づかないうちに立ち上がってオーカスの後ろを歩いていたのだ。
オーカスはラグの顔を見ずに言う。
「買い物くらい一人でできますから、来て頂かなくて結構です」
ラグはオーカスを追い越しざまに言った。
「俺が一緒に行きたいんだ」
剣を腰に挿しながら先に歩いて行く。オーカスの足音がしなのでラグは振り返った。
オーカスはまだ怒った表情をしている。
オーカスの機嫌が良くならないのでラグは言葉を付け足した。
「もう一人でケルティック邸へ行くな。買い物もだ。でないと、俺の酒が増える事になる」
ラグは歩き出した。横目でチラリチラリとオーカスを見て顔色をうかがっている。オーカスが何も言わないので痺れを切らしたラグがまた口を開いた。
「なんだ? まだ他に何かあるのか?」
「いいえ。何も」
「なら行くぞ」
最近のラグは言葉数も増えて感情が表に出るようになってきている。
ラグの背を見ながら歩くオーカスは少し笑顔になった。